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2019.01.17
室町の学問と知の継承
法文学部 / 教授 田中 尚子 / 専門:日本中世文学

※記載内容は掲載当時のものです。

室町期における学問環境の実態解明

研究の概要

 室町は五山僧や公家学者などの活躍によって学問が発展した時代と言われています。彼らは積極的に講義を行ったり注釈書を作成したりするのですが、その対象となったのは和歌、物語、式目、医学書、漢籍など多岐にわたります。そもそも注釈書とは、テクストが過去のものとして意識されるようになった時、その原文理解の手助けとして成立するもので、それ故に語彙や単語の読みなどの基本的な解説事項が基本となります。しかし、室町期に成立した注釈書群はそういった解説事項の枠にとどまりません。同じ作品に対しても手がけた人間が変われば全く異なった説が示されるように、個々の学者たちが膨大な典拠に当たった上で独自の説を展開し、新たな世界観を創り出していきます。こうなってくると、これらはもはや元の作品の副産物・付属品のレベルではなく、新たな作品として認めるべきであって、それ自体を研究対象としていく必要が出てくるのです。こういった注釈書をはじめ同時期の日記・記録類などの分析を行い、室町期の学問環境の実態を解明していくことが、今現在の私の研究の中心になっています。言ってみれば、古典文学作品それ自体の読みを深めるというよりも、その作品が後の人にどう享受されたのか、なぜそのような現象が起きたのか…といった、ある意味、作品の外側に注目しているということになるでしょうか。

研究の特色

 室町期の学問の中でも、特に五山僧や清原家における漢籍享受の在り方について考察し、当時の学者たちが異国の資料を用いつつ自国の正統性を主張していく様を明らかにしてきました。この他にも、日本における三国志享受の様相の通史的把握や、『平家物語』・『太平記』といった軍記物語と『三国志演義』・アーサー王伝説など世界の合戦文学との比較も行っています。こういった複数のアプローチから、とかく「乱世」と表現される中世という時代について、その実態把握につとめています。尚、これまでの研究成果は『三国志享受史論考』(汲古書院、2007)、『室町の学問と知の継承 移行期における正統への志向』(勉誠出版、2017)としてまとめました。

 

研究の魅力

 何と言っても過去の文献の中から、室町という乱世を懸命に生きる人々の姿を垣間見ることができる点に魅力を感じています。人間離れした博学多才ぶりを示すのみならず、時に難解な文章の解釈に悪戦苦闘する様、日々の飲食、友達づきあいの様子など等身大の姿も見せてくれていて、それが研究対象を身近に感じさせます。そんな彼らが残してくれた学問成果は、何百年も後の世を生きる私たちが古典を読む際の注や解釈に反映されもします。学問は連綿と受け継がれるのです。そういった過去から今への継承の様を意識する時、自然と先の世へも思いを馳せることになります。自分自身も僅かなりとも後世の学問に貢献することができれば、といった思いを持てるのも研究の魅力と言えるかもしれません。

今後の展望

大英図書館。資料調査のために海外に行くこともあります。

 室町の学問が江戸初期の学者たちにどう受け継がれていくのか、平和な世を迎えた中で、乱世に作られた学問がどのように受け止められていったのかという点についてさらに追求していきたいと考えています。その際に注目しておきたい1つとしてキリシタンの問題があります。当時、公家や戦国武将から講義を依頼されるほどに著名な儒学者でありながらキリスト教の洗礼を受けるに至った者がおり、また宣教師側では日本を知る目的から軍記など日本の古典を読んでいたとされます。それまでの中国との関係だけではなく、西欧との関わりもこの時期には見えてくるのです。こういった他国との関係性を無視してこの時期の学問・文学事情について考えることは難しいでしょう。
 尚、古典文学の領域においても最近では海外に向けて発信することが求められるようになり、国際学会・研究会も積極的に開催されています。国際化が進む研究業界の動向にも後れを取らないようにしていきたいところです。

この研究を志望する方へのメッセージ

授業風景。 演習の授業は学生たちによるプレゼンとそれに基づいてのディスカッションが中心になります。

 古典文学研究とは本を読むだけだ、しかも過去の文章だからそこに何の変化もあるわけがないなどと思っていませんか。決してそのようなことはありません。何か1つでも新しい発見があれば、みなさんが学んできた古典常識や文学史が一気に覆されることだってあるのです。事実、『徒然草』の著者とされていた「兼好法師」については、これまでの理解が今、大きく改められつつあるところです。古典文学にはまだまだ掘り起こせる部分が残っています。そのことを意識した上で、自由に、そして楽しみながら、古典文学に向き合ってもらいたいと思います。

研究者プロフィール