開発援助効果の持続性を求めて
※掲載内容は執筆当時のものです。
フィールド実験を通じた客観的な証拠探し
研究の概要
植民地支配が終わった1960年代から半世紀以上も開発援助が続けられてきたにもかかわらず、いまだに南北格差は存在します。先進国に住む私たちにとっては、災害にあったときなどに一時的にしか経験しないような生活を、日常的に強いられている人たちが途上国にはたくさんいます。
これには当然、政府開発援助(ODA)が結局は援助国の国益を優先せざるを得ないという事情や、援助される側で富や権力をめぐる武力対立が頻発したり、政府や社会に腐敗が蔓延したりしていることなどが影響しています。しかし、援助そのものの非効率性や非有効性にも原因があると言えます。そのため近年では無作為化比較実験などによって、援助の実際の効果を検証することが広く行われるようになってきました。私の研究も、その様な研究潮流に含まれます。
研究の特色
私の研究は、とくに援助の効果の中・長期的な持続性に焦点を当てています。ODAであろうと、民間による慈善事業であろうと、また、どのセクター(保健、教育、産業など)に対する援助であろうと、援助というものは、①課題を解決すると思われる特定の財・サービス(を購入する資金)をあたえるか、②課題を解決すると思われる方法を教えるか、あるいは③課題解決のための資金を(使途不定で)与えるか、のいずれかの形態をとりますが、仮に次から次へと援助が行われたとしても、援助する側が去った後に与えられた財・サービスや教えられた方法が、援助された側によって持続的に活用され続けなければ、効果の累積は期待できません。しかし実際は、③の場合を除いて、持続的に活用され続けられることは非常に稀です。理由はいろいろ考えられますが、私の研究はその原因を特定し、援助に持続性を持たせる対策を見つけることです。
研究の魅力
上述したような問題は、開発援助が美談として語られることが多いため、外部からは特定されにくい状況にありますが、その存在に薄々気づいている人は多いのではないでしょうか。そのような問題を科学的に解明しようという点がこの研究の最大の魅力です。と同時に、私が研究に感じているもう一つの魅力は、途上国のような制約のあるフィールドにおいて、自分が立てた問いを明らかにする方法を使い分けたり考え出したりすることの難しさです。上述した無作為化比較実験が行えない場合に次善策としてどのような分析方法を駆使するか、あるいは無作為化比較実験が可能な場合でも、要因をどのように測定するか、苦しみながらも楽しみながら考えています。分析や測定の技術は日進月歩なので、日々新しい技術の吸収に努めています。
今後の展望
ウガンダで行ったフィールド実験の結果、援助効果の持続性を引き出すと従来考えられていた二つのアプローチ、すなわち、援助内容を現地のレベルに合わせるという方法と援助内容の決定や実施の管理に援助される側を参加させるという方法は、持続性を高める効果がないことが判明しました。もちろん、他の文脈で実験を繰り返して同じ結果が得られるか確認していかない限り、一般化はできませんが、これまで妄信されてきたアプローチに実は効果がない可能性を指摘できたことは、長らくこれらの対策を続けてきたにもかかわらず、持続性問題が解決されてこなかった事実を理解する一助になります。今後は、再検証を続けると同時に新たな別の対策、具体的には、課題解決までのプロセスを援助する側が指定・監視するのではなく、援助される側に任せるアプローチなどの効果を検証していく必要があります。
この研究を志望する方へのメッセージ
真実を客観的に明らかにしようとするこの種の研究には「開かれた心」が必要です。心を開くのは分析結果に対しては当然のこと、「問い」に対しても固定観念や先入観に縛られないようにする必要があります。「国際協力」というと良いイメージしか浮かばないという人もいると思います。それはおそらく情報源に偏りがあるからです。情報源を多様化すれば、一つの情報を鵜呑みにせず、クリティカル・シンキングができるようになります。そして情報源の多様化には英語での情報収集が必須です。なにもネイティブ並みなる必要はありませんが、英語での情報収集と情報発信は抵抗なくできるようになる必要があります。ですので、今、英語が苦手な人はまずその意識の克服を、得意な人は、英会話に満足せず、外国人の見解を英語で収集し、自分の見解を外国人に英語で伝える経験を少しでも多く積みましょう。