赤外線吸収スペクトル(IR)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、質量スペクトル(MS)の原理、測定法、解析法を解説し、それらを用いた化合物の構造決定を演習を通して身に付けることを目的としています。
授業内容
※広報課の職員が実際に受講しました。
この授業は、全15回で構成されており、前半の6回は講義形式で、有機化合物の構造を調べるための解析方法や判断の根拠となる知識を学びます。後半の9回は演習が中心となり、実際のデータをもとに分子構造を自分で推測する力を身につけていきます。今回は、後半に行われる演習の回に参加しました。
演習の内容は、波形データ(スペクトル)を手がかりに、「この有機化合物はどんな形・構造をしているのか」を考えていきます。一見すると難しそうですが、やっていることはパズルを解く感覚に近いもので、分子量や波形データの特徴などから得たヒントを組み合わせながら、論理的に答えを導き出していきます。
学生は、A3サイズの大きな紙を使用し、途中の計算や気づいたこと、分子構造の図などを自由に書き込みながら解いていき、自分がどんな考え方をしているのか整理しながら回答を導き出します。「正解を書く」だけでなく、考えた過程そのものを見直せる点も、この授業の特徴です。
有機化合物は、薬や有機ELパネルなど、身近な製品に使われています。しかし、構造が少し違うだけで、薬が毒になったり、機能しなくなったりすることもあります。そのため、この授業で学ぶ「根拠をもとに正しい構造を導き出す力」はとても重要です。
授業全体を通じて、まずは一人で考え、それでも難しいときは友達と相談し、最後に先生やTA(授業の補助をしてくれる大学院生の先輩)に質問するという流れが自然にできており、受け身ではなく主体的に学ぶ姿勢が身につく授業だと感じました。授業の最後には解答用紙を提出し、次回の授業までに先生とTAがすべて目を通してくれます。返却された答案には、正誤だけでなく、「どこがよかったのか」「どこを見直すとよいか」「どこが足りていないか」といったアドバイスが丁寧に書かれていました。分からないところをそのままにせず、次につなげられる、とても手厚いサポートだと感じました。
教員からのコメント
すべての物質は原子からできています。原子の種類は周期表から百数種であることが確認できます。それでは原子で構成される分子は何種類あるか皆さんはご存じでしょうか。数百万種?数千万種?アメリカ化学会のデータベースに登録されている化学物質は、現在「2億7,900万件」を超えています (2026年1月時点、https://www.cas.org/ja/cas-data 参照)。10年前の登録数がおよそ1億件だったので、この10年で登録数がおよそ3倍になっています。平均すると1日あたり約5万件、約2秒で1件登録されていることに相当します。ものすごいペースで増え続けていることがわかります。
これらの化学物質はひとつとして同じものはありません。つまり構造や組成が違います。分子の形は肉眼で確認することはできませんから、何らかの科学的な根拠に基づいてその構造を特定する必要があります。その手法として、赤外線吸収スペクトル (IR)、核磁気共鳴スペクトル (NMR)、質量スペクトル (MS) を利用した有機化合物の構造決定法が用いられます。
この授業では、前半に各種スペクトルの原理、測定法、解析法を解説します。つまり、スペクトルから得られる情報をどのように読み取るのかを学び、その情報から有機化合物の構造を決定する方法を学びます。構造を決定するためには、分光学、分析化学、有機化学などの幅広い分野の知識を総動員する必要がありますから、受講生は理解を深化するのに苦労することもあるようです。
後半の授業は演習形式で進めます。演習問題はIR、NMR、MSから有機化合物の構造を決定する問題で、1回の授業で6〜7つの問題に取り組んでもらいます。初めは構造を決定するのに苦労している受講生が多いのですが、ティーチングアシスタント (TA) の大学院生や教員から構造決定のコツを丁寧に教えてもらうことで、徐々に自力で構造決定できる受講生が増えていきます。各種スペクトルから得られる情報を読み解いて構造を決定できたときは、パズルのピースをきちんとはめて完成させたときの爽快感に近いものを感じる受講生もいるようです。化学の授業を受けていると言うよりは、パズルゲームを解く感覚で受講している学生もいます。 化合物の構造を決定する能力は、化学の理解に必要不可欠です。その知識、技術を楽しんで学ぶことができるように TA、教員が全力でサポートしている授業です。
受講学生のコメント
工学部 工学科化学・生命科学コース 3年生 高橋 恋波さん
この講義では、NMR や IR などのスペクトルを用いて、物質の構造や性質を解析するための基礎的な考え方と手法を学びます。目に見えない分子の情報をスペクトルとして捉え、それをどのように読み解くのかを、演習を通して体系的に理解することができます。
私は高専から愛媛大学 工学部 化学・生命科学コースに3年次編入しました。現在は有機化学系の研究室に仮配属されており、研究活動の中で NMR や IR などのスペクトル解析が不可欠であると感じています。そのため、研究に必要な基礎力を身につけたいと思い、この講義を履修しました。専門的な内容も多いですが、演習形式で進むため、実際に手を動かしながら理解を深めることができます。この講義を学ぶことで、スペクトルを感覚的に見るのではなく、根拠を持って解析する力が身につき、今後の研究や卒業研究にも大きく役立つと感じています。化学・生命科学コースで実験や研究に取り組みたいと考えている人には、ぜひ履修してほしい講義です。







