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授業紹介 I Report

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2021.01.14
社会心理学
工学部 社会共創学部
担当教員:羽鳥 剛史 / 対象:社会共創学部1回生~、工学部工学科2回生~

※掲載内容は取材当時のものです。

 この授業は、都市問題、交通問題、環境問題、地域防災をはじめ、様々な社会問題の根本に社会的ジレンマの問題が存在していることを理解するとともに、持続可能な地域社会の実現に向けて、いかにすれば社会的ジレンマの問題を解消することが出来るかについて、社会心理学の諸知見を学びながら、各自の考えを深めていくことを目的としています。
 「社会的ジレンマ」とは・・・個人の私的利益と社会全体の公共利益とが対立する状況を表します(例えば、自転車の放置駐輪は、自分一人にとっては都合が良い行動であるが、社会全体にとっては望ましくない)

授業内容

 令和2年度第3クォーターでは、Zoomを用いた同期型でオンライン開講されており、初めてのオンライン授業に参加しました。同期型で開講される授業は、先生から学生さんに向けた一方的な解説だけではなく、学生さんへの質問なども織り交ぜながら進められており、臨場感のある授業でした。

 この日は授業の最終回で、「災害心理とリスクコミュニケーション」について学びました。日本の観測史上最大規模であった東日本大震災(平成23年3月11日)をはじめ、全国的に自然災害が発生しており、愛媛県でも、平成30年7月豪雨などの災害に見舞われ、防災に対する意識が高まっている中で、興味深い授業です。

 「防災に対する意識が高まっている」と、多くの人が感じている一方、「どのくらいの津波予測で避難するか?」「どれくらいの高さの津波を危険と思うか?」という具体的な津波に対する危険意識調査では、東日本大震災の前後で危機感が顕著に低下していました。

東日本大震災前後の津波に対する危険意識

どれくらいの津波予測で避難するか?

 「1mかそれ以下で避難」 震災前:約60% → 震災後:約38%に低下

 「5m以上でないと避難しない」 震災前:約7% → 震災後:約25%に増加

どれくらいの高さの津波を危険と思うか?

 「1mかそれ以下で危険」 震災前:約70% → 震災後:約45%に低下

 「5m以上でないと危険でない」 震災前:約4% → 震災後:約22%に増加

中谷内一也『次の大地震/大津波による被害抑制に向けて』(2011年社会心理学会シンポジウム講演)

 これは、東日本大震災で10mを超える津波の高さが強調されたことで、髙い数値が人の心にアンカー(いかり)を降ろし、1m以下では大したことがない、と感じてしまうアンカリング効果によるものです。実際には、1mの津波でも高齢者や足の不自由な方には大変危険なものです。
 授業では、このアンカリング効果を実感してもらうために、学生さんを2グループに分けて、異なる数字を提示したうえで、先生から簡単な質問がありました。その結果、回答の平均値は、見事に事前に提示された数字に影響されていました。

 くわえて、正常性バイアスも人の行動を左右します。自然災害や火事、事故・事件等の犯罪などといった自分にとって何らかの被害が予想される状況下にあっても、自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりして、「いつもと変わらず正常である」と心の状態を保とうとする人間の特性です。
 非常ベルが鳴っただけでは、「誤作動かな」と思い込み逃げようとしない、という事例は身に覚えがある人も多いかもしれません。

 「ハザードマップ」を作成する自治体や自主防災組織も多いですが、これには想定の罠が潜んでいます。想定以上に大きな災害がきた場合、想定エリア外(特にエリア内の境界線に近い場所)で死亡者や行方不明者が増加する傾向にあります。

 さて、この授業の中心的な概念である「社会的ジレンマ」ですが、短期的・個人的な視点に立てば、災害はいつどこで起こるか分からない不確実な事象です。一方、長期的・社会的な視点に立てば、いつかはどこかで起こる確実な事象となります。いつかは起こる自然災害に備え、リスクに強い地域社会を築きあげるためには、効果的なリスクコミュニケーションが必要になります。ハザードマップを作る・災害シミュレーションをする・避難カードを作る・災害発生に備え、災害発生前にするべきタイムラインを作成するなど、様々な取組が行われています。

 最後に、先生から学生さんに課された演習課題は「リスクコミュニケーションの演習」です。ある自治体の職員として、地域住民の防災意識・防災行動を促進し、災害に強い地域を築くための効果的なリスクコミュニケーションを企画する、というものです。学生の皆さんは、どのような企画をされるのでしょうか。

 今後生きていくうえで、災害に対する考え方や行動について考えさせられる、大変勉強になる授業でした。この授業を受講した学生さんたちも、是非、今後の人生に活かしてほしいと思います。

 

教員からのコメント

 地域づくりやまちづくりを進める上では、人々の「心理」を理解することはとても重要です。人々の心のあり様次第で、地域社会の問題解決につながる諸活動が活発化することもあれば、その反対に、様々な社会問題が深刻化することもあるためです。こうした心の理解が、地域の課題解決を導く方途を考える上でのヒントになることを期待しています。この授業では、学生自身が社会心理学の知見を基にして社会問題の原因を考え、その解決策について提案・実践するグループワークを積極的に設けています。皆さんも一緒に社会心理学について学んでみませんか。

 

学生からのコメント

 この講義では、私たちが社会の一員としてかかわる問題を解決するための方法を探ります。社会心理学の名のとおり、私たちが個人ではなく社会に属する集団として議論や行動をするとき、その意思決定にはどのように心理的な作用が働いているのかを様々なシチュエーションから学びます。

 講義の中で中心となるのが、「社会的ジレンマ」という心理現象です。私たちが社会をよりよくするためには一人一人の協力が必要ですが、協力のための行動は必ずしも個人にとって都合がよいとは限りません。そのような状況で、一人でも多くの人に協力的な行動をとってもらうにはどうしたらよいのか。また、なぜ人々は協力的な行動をとってくれないのか。このような心理的なはたらきを、さまざまなアクティビティの中で私たち自身が社会の一員として体感しながら、解決方法を考えていきます。

 大学の講義でありながら、この社会心理学とは私たちにとって誰にでも身近な内容です。将来、自分が社会でのまとめ役としてみんなに協力をうながす立場になったとしても、一市民として社会を構成する一人となったとしても、きっと役に立つ内容がつまっています。