この授業では、鉱石から金属素材を製造するための様々な方法(プロセス)を紹介した上で、その基礎となる反応を熱力学的な化学平衡論や電気化学にもとづいて学んでいきます。産業と生活を支える基幹材料である鉄鋼や、ハイテク製品に必須となる非鉄金属の製錬プロセス、またリサイクル方法を学ぶことで、これからの技術開発にも生かせる基礎的な考えを身に着けることを目的としています。

授業内容

この授業は、工学部工学科の3年生以上を対象とした専門教育科目です。化学平衡や酸化・還元といった基本的な概念を改めて学びつつ、その先の専門的な内容や工業的な応用へと踏み込んだ授業となっています。今回は、全8回の講義のうち、4回目の講義を取材しました。


前回までの講義では、酸化物や硫化物などの鉱石を金属単体にするために必要となる条件(温度や周囲のガス組成)について、化学平衡の観点から理解するための考え方を学びました。今回は、異なる金属同士を分離するために必要となる、合金の状態図の復習からスタートしました。

物質は、温度や圧力によって、固体・液体・気体の三つの状態へと変化します。それぞれの条件において、物質がどのような状態になるのかを示した図のことを『状態図』と呼び、例えば水の状態図であれば、水が氷や水蒸気となる温度や圧力が示されています。材料工学の分野では、異なる元素を様々な割合で混ぜたときに、どのような合金になるか(均一に混ざって溶けあうのか、混ざらずに分離するのか)が示された状態図が広く利用されています。このとき、温度を縦軸、元素を混ぜる割合(組成)を横軸にとるのが一般的だそうです。優れた材料の開発を目的とした研究においても状態図は役に立つので、工学部材料デザイン工学コースでは、この講義以外でも重点的に学習する機会があるそうです。

講義では、オリジナルのレジュメをもとに、銀(Ag)–銅(Cu)系および銅(Cu)–ニッケル(Ni)系の二元系合金の状態図の説明が行われました。二元系合金とは、2種類の元素で出来ている合金という意味です。銀と銅のように固相では混ざりにくい組み合わせもあれば、銅とニッケルのように均一に混ざりやすい組み合わせもある、といった合金の性質を踏まえ、高温で液体となった合金を徐々に冷やしていくと、どのような反応が起きるのかを状態図にもとづいて考えていきます。講義では、板書された状態図の例をもとに、受講生との質疑応答を交えながら解説が行われました。
そのなかで、液相から固相になる際に二種類の元素が分離して縞模様を形成することを「共晶」と呼ぶのだというお話では、イメージ図を用いた視覚的にも分かりやすい説明がなされ、受講生たちは手元のレジュメに色を付けながら、内容を整理している様子でした。

さらには発展的な内容として、三元系合金の状態図が紹介されました。三つの元素からなる三元系合金の状態図は、二元系合金のように、縦軸を温度、横軸を組成とした平面的な見方だけでなく、三角柱をイメージして立体的に考える必要があると説明されました。より専門的な内容ではありましたが、受講生たちが理解しやすいよう丁寧に解説されていました。

講義の最後には、今回までに学んだ内容を使っての演習が行われ、講義内容が理解できているかの確認が行われました。受講生たちは今までに使用したレジュメや参考書を確認しながら、集中して演習に取り組んでいました。
受講対象が3年生以上ということもあり、基礎的な内容はもちろん、卒業研究や大学院進学を視野に入れたお話もあり、化学の奥深さを感じることのできる講義となっていました。

教員からのコメント

「非鉄金属」という言葉には馴染みがないかもしれませんが、鉄鋼以外の金属全般(銅・鉛・亜鉛・貴金属・アルミニウムなど)を指します。愛媛県東予地方の産業は別子銅山を中心に発展してきた歴史がありますから、愛媛大学の学生には、ぜひ非鉄製錬に親しみを持ってほしいと思っています。
この授業では、工学部材料デザイン工学コースの3年生を対象に、工業製品の材料となる鉄鋼や非鉄金属が鉱石から作られる方法(プロセス)を説明しています。高校の教科書にも各種金属の製錬法が説明されていますが、この授業ではさらに踏み込んで、大学で学んでいる金属の物理化学にもとづいてプロセスを理解することを目指しています。

この授業がどのように学生の役に立ってほしいか、私が期待していることをここで挙げておきます。
まず、卒業後には鉄鋼メーカーや非鉄金属メーカーで働くことを考えている学生には、今のうちに製錬についての基礎的な知識や具体的なイメージを持ち、進路選択の参考にしてほしいです。そして実際に就職したときに、その知識が職場で少しでも役に立てば嬉しいです。
他の業界で働くつもりの学生も、4年生のうちには卒業論文を書くための研究をすることになるので、自分で試料を作る際などにこの授業がヒントになればと思っています。金属の製錬方法は、合金やセラミックスなど各種材料の作製方法にもつながっているからです。

そして最後に、金属の作り方について学びながら、ものづくりの進歩を意識してほしいと思っています。この授業の前半では、青銅器時代に始まったような、高温の炉で金属を作る方法を説明します。後半では、200年ほど前に電気分解が発明されて以降に可能となった、電気分解を利用した製錬法を説明します。このように、金属の作り方は時代によって変わっていきます。現代について言えば、鉱石からの製錬のみでなく、リサイクル原料の処理がますます重要になっています。環境に配慮してプロセスも改良していかなければなりません。技術者になる人は、ものの作り方が新しくなることと、そのような技術の開発においては科学的な原理が根底にあることを、この授業を通じて感じてもらえればと思います。

学生からのコメント

工学部工学科 久森 雄太 さん

工学部材料デザイン工学コースでは、普段から触れている製品にも使われている様々な材料について学ぶことができます。金属材料については、金属の基礎的な性質や実用的な合金の特性などを物理的な視点で学ぶ授業も多いのですが、この鉄鋼・非鉄製錬学では、鉱物から実用可能な金属材料を作るまでの製造プロセスの基礎について学びます。原料が材料になるまでの化学反応を理解することにより、新しい材料を開発するための基本的な知識や考え方を身に着けることができるので、今後の卒業研究や、将来企業で研究開発を行うときにも役に立つと思います。
このような授業を受けることにより、普段何気なく触れている金属材料ついて、その製造に関する工夫や、今まで意識しなかったその素材の特性について知ることができます。学んだことと日常とがつながっていると感じられることが、材料デザイン工学コースの講義の魅力の一つです。