平成15年10月21日、愛媛大学と米国ウィスコンシン大学、ウィスコンシン大学卒業生研究財団、及び株式会社セルフリーサイエンス(愛媛大学発ベンチャー)の4者で、共同研究協定が締結されました。
本協定の目的は、本学の無細胞生命科学工学研究センター長・遠藤弥重太教授が、世界に先駆けて開発した「無細胞タンパク質合成技術」の応用に向けて、共同研究を進めようとするものです。これにより、無細胞タンパク質合成技術が、国際的なバイオ研究の推進に大いに貢献できるものと期待できます。
このことについて、ウィスコンシン大学マディソン校のホームページに、記事が掲載されています。
※参考訳文※
ニュース@ウィスコンシン大学マディソン校のホームページより
2003年10月21日掲載
ウィスコンシン大学マディソン校/日本との共同研究でタンパク質世界の解明を促進
地球上の生命体を構成する何十億ものタンパク質は生物学の世界のなかで、真に地図が描かれていない(踏査されていない)領域のひとつとして残されている。その探究(探検)に必要な技術が、非常に手間がかかり困難なものだったというのが主な原因だ。
この度、研究協力関係を結んだ、ウィスコンシン大学(UW)マディソン校、日本の大学、および企業は、この共同研究で従来よりも簡単にタンパク質の形と構造を描くことを可能にする技術を開発することを目的としている。UWマディソン校・生化学教授のジョン・マークレー氏によると、この技術の応用で、何百、何千ものタンパク質の内部の働きを紐解く助けとなるという。タンパク質が原因となる病気をさらに理解すること、また、バクテリアから植物、人間にいたるまで、すべての生命体の構成素子に関する重要な新しい情報を提供することが可能になるという。
今週、UWマディソン校・真核生物構造ゲノミクスセンター(CESG)、大学の特許管理機関であるウィスコンシン大学卒業生財団(WARF)、日本国松山市にある愛媛大学、そして日本のバイオテクノロジー企業セルフリーサイエンス社-横浜-の4者で、共同研究同意書にサインした。この同意書では、日本で生み出された新しい強力なシステムを、生化学者がタンパク質の構造を解くために必要な精製された大量のタンパク質を作るために改良するという、4者間で進行中の共同研究を、正式に文書化した。
この同意書によって、CESGはこのシステムを用いたベータテストを行う米国で唯一の機関となる。その成功率とコストを、構造解析のために行われていた従来のタンパク質合成法と比較してみるだろう。
この技術を先頭に立って広げていこうとしているのは、主席(プリンシパル)研究者であり、CESGのセンター長であるジョン・マークレー教授と、研究者のディミトリー・ヴィナロフ氏である。マークレー教授のCESG指針プロジェクトは国立衛生研究所タンパク質構造イニシアティブ(PSI)により資金を受け、核磁気共鳴装置(NMR)分光器、X線結晶学を用いて、ねじれ、折りたたみ、形など個々のタンパク質を形成している独特の構造を視覚化するものである。この新しい合成システムが研究者たちの期待どおりうまく行けば、実質的には一晩で、NMR解析に充分なタンパク質を作ることも可能となる。
マークレー教授によれば、現在一般的には、たった一個のタンパク質の立体構造を解析するのに1年を要し、費用も1千万〜2千万円かかるという。われわれのグループのみならず、国内の他の8つのPSI指針プロジェクトでも認識していることではあるが、より速く安価に構造を解析する上で最大のボトルネックが、タンパク質の生産である。
「この技術には、この問題を解決してくれる可能性がある。」とマークレー教授は言う。ヒトのゲノムをマップ化してきたのと同じように、ヒトの“プロテオーム”をマップ化することを可能にするだろう。たとえばアルツハイマー病や狂牛病に関連するタンパク質のような異常タンパク質の構造が分かれば、そのような病気の新しい治療法を導き出せるだろう。研究者たちは、タンパク質をベースにした新しい薬を創り出すために、解明されたタンパク質やその断片への変異を設計することも、より容易になるであろう。
現在は、大量の個々のタンパク質は、通常、大腸菌のようなバクテリアを、その通常の増殖過程の一部として外来タンパク質を生産するように改変することによって作られている。しかし、植物や人間由来のタンパク質を大腸菌で作った場合に異常な構造をとることが多く、これは構造解析には役に立たない。結果として、CESGの所有する最高技術水準の大腸菌生産システムは現在、センターの目的とするタンパク質の構造決定の11パーセントでしか使えていない。
この問題を乗り越えるために、科学者たちの目は、日本で開発された技術のような、「無細胞システム」という技術に向けられた。日本で実施され、ウィスコンシン大学マディソン校のヴィナロフ氏により確認されたところによると、この新しいシステムでは、CESGの目的タンパク質の60%までが合成できる。
愛媛大学の遠藤弥重太教授が開発し、2000年および2002年のPNAS(科学ジャーナル)で発表したこの技術は、コムギの種の中の非常に小さな植物の胚から得られる抽出液のタンパク質合成機能を利用するものだ。過去にも他の研究者がこのシステムを試したことはあったが、遠藤教授は、抽出液の製造工程を改良することにより、すばらしくその効率と安定性を高めることに成功したのだ。そのひとつは、種の中に存在する、タンパク質合成を阻害する天然の因子を取り除くため、胚を注意深く洗うというものだ。
遠藤教授と、愛媛大学、およびセルフリーサイエンス社(この技術の市場化を担うバイオテクノロジー企業)は、次に、新しいロボットシステムの基盤技術を開発した。通常研究者らが手作業で行っていた、およそ36の合成段階をオートメーション化した。同意書にも書かれているように、11月半ばにはセルフリーサイエンス社からマークレー研究室にこのタンパク質合成ロボットが納入される予定である。マークレー教授は年内にもそれを手に入れて稼動させたいと希望している。
「すでに手作業ではコムギ胚芽を使って構造解析に充分なタンパク質を合成することを実証済みだ。」とヴィナロフ氏。「自動合成装置の投入により、高効率タンパク質合成法の可能性を試すことができる。」
「まだ検証が必要な部分はあるものの、」マークレー教授が付け足した。「このシステムはラージスケールの無細胞タンパク質システムの新しい基盤となるだろう。この共同研究が前進したことを大変うれしく思っている。」
ウィスコンシン大学マディソン校のホームページ(ここから学外サイトです。)
無細胞生命科学工学研究センター