平成18年3月24日(金)午前10時から愛媛県県民文化会館メインホールにおいて、平成17年度愛媛大学卒業式が行われ、1、809人に学位記を授与しました。
また、午前11時から同サブホールにおいて、大学院学位記授与式が行われ、433人に学位記を授与しました。
小松学長は、各学部の代表者に学位記を手渡し、「皆さんの学びと研究の中で鍛えてきた知の力は、ご自身の宝であると共に、人類共有の財産として活かしていかなければなりません。」とエールを送りました。これに対し卒業生を代表し、農学部の渡部和大さんが、「素晴らしい思い出と愛媛大学で学んだ多くの財産を持って卒業できます。」と答辞を述べました。
また、大学院学位記授与式では、「皆さんは、これからの社会のリーダーとなるべき人材です。現代のような社会システムや産業構造の転換期には、既存の大企業やシステムに安住することを求めるのではなく、自分の能力を発揮する場を特に地域において見いだし、自らの新たな活動の場そのものを創造的に作り出すような挑戦をしていただきたい。」とはなむけの言葉を贈りました。
学長式辞
本日ここに平成17年度卒業式を挙行するにあたり、学位記を授与された1、809名の卒業生の皆さんに、心からお祝いを申し上げます。本式典にご出席をいただきましたご父兄、ご関係の皆様に対して、心からお慶びを申し上げますとともに、日ごろからの本学へのご理解、ご支援に対しまして、この機をお借りしまして深く感謝申し上げる次第であります。
本日のこの晴れの式典には先ほどご紹介させていただきましたように、多数のご来賓の皆様の臨席を賜りました。お忙しいなか、ご臨席を賜りましたこれらの方々に厚くお礼を申し上げます。
さて、この冬は例年になく厳しいものでありました。しかし、このところ当地もようやく春めいてまいり、春の大気がこの式典会場を包み込んでくれているように感じられます。卒業式に臨まれた皆さんの喜びもまたひとしおのことと存じます。
卒業される皆さんがこの4年間あるいは6年間、さまざまな困難や試練を乗り越えて、今日のこの日を迎えるに至った努力に対し、心から敬意を表し、その努力をたたえるものであります。ここまでに至った過程には、苦楽をともにした友人、先輩や後輩、指導教員や職員の暖かい支えがあったことを忘れてはなりません。大学で自らが得た知識や技能のみならず、このような人間関係や人々との交流の経験は、皆さんのこれからの人生の糧となるものであります。
さて、皆さんの多くは卒業後、社会に巣立って行く訳ですが、それぞれ行く道は違っても、これからの人生を有意義に送って欲しいと思います。大学卒業は人生の一つの重要な節目ですが、それは同時に就職あるいは大学院進学という新たな道の始まりであります。その節目にあたって、新たな道をどう進んで行くか、自分のなすべきことは何かを考え、目標をしっかりもって、その目標にむかって努力すること、このことにぜひ取り組んで欲しいと思います。さらに、この先、人生の転機、人生の節目が何度か訪れます。その都度、同じように自分の置かれた位置と、仕事を振り返り、新たな任務に対する目標をもって、その実現のために努力すること、すなわち、キャリア・デザインやキャリア開発と呼ばれるものが極めて重要であります。
キャリアを自らの力で開拓することによって、人はその度に一皮も二皮もむけて、成長し発展するものであります。もし、いっときの自分の能力に慢心し、あるいは逆に、己の力のなさに絶望してしまい、努力を放棄し、諦めてしまいますと、そこで人の成長発達はストップしてしまいます。そうして、努力する人との差がいつのまにか、歴然としてくるのであります。
いま、我が国は、社会的にも、経済的にも、これまで経験したことがなかったような急激な変化の時代を迎え、国内でもまた国際社会でも一層流動的で複雑化した先行き不透明な時代を迎えています。このような時期には予想もしないことが起こり、大きな不安を感じている人々も多いのではないでしょうか。しかし、私たちは日々起こっている事象を表面的にだけ捉えて一喜一憂するのでなく、個々の現象の本質を知的に把握し、今という時代がどういう大きな変化の過程にあるのか、歴史的にしっかりと理解する視点が必要でありましょう。
21世紀は、新しい知識や情報、技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる知識基盤社会の時代であると言われています。工業社会から知識社会への移行です。工業社会においては大規模な機械・設備を使い、規格製品を大量生産することが、経済活動の中心をなしてきました。これに対して、ポスト工業社会、すなわち、知識社会においては、多様な消費ニーズを背景に、商品やサービスの質・付加価値が重視され、人が知恵や感性を通じてこれを作り出すことが経済活動に大きく寄与することになると指摘されています。
つまり、人間の有用な労働とは何かという点において、知恵やノウハウの提供がより大きく評価される時代となります。もちろん、組織のリーダーには、より一層そうした内容の能力が要求されるわけであります。このような社会ではただ単に専門知識を持つだけでは不十分であり、知識をどう運用するか、どう適用するかという知恵が必要になるのです。
皆さんが大学で学んだことのなかで、重要なことはこの点です。つまり、固定的な専門知識ばかりではなく、ものごとや現象をどのように見、どう考え、真実をどうやって見いだしてゆくのか、 抽象的に申せば、観察力、直感力、洞察力、広い視野などといったことであります。このような、にわかには言葉では表すことのできないもの、それがすなわち、感性とか知恵、ノウハウと言われる力なのです。こうした能力は経験を通してしか獲得できないものです。皆さんが大学の学修の過程で体得したものはまさにその入り口に過ぎません。これからの長い経験の積み重ねのなかで、より高い次元の感性や能力を体得していっていただきたいと期待しております。
これからは地方の時代であります。地域が活力を取り戻し、自立して行くことが求められます。ポスト工業社会では、生産手段が機械や設備から人の能力に替わってくるため、資本や設備の大きさ、企業規模の大小は問題にならなくなります。能力次第でどこでも、誰でもが社会的なルールに従ってビジネスを起して活躍することができるようになります。その気になれば、自分が本当に自分らしく生きる途を見つけることができる時代が始まっているのであります。現在のような産業構造、社会システムの転換期にこそ、皆さん自身が目標をたて、自分の能力を発揮する場を自らが作り出すような気概に満ちた挑戦を是非おこなっていただきたい。
もちろん、個人的な目標に留まらず、社会やもっと広く人類共通の課題、地球温暖化の原因と見なされる炭酸ガスの削減、省エネルギー化や森林資源の保全など、抜本的な解決を展望した人類的な課題に真剣に取り組まなければ、私たちの存在自体が危険にさらされることになりかねません。同時に、これから国の内外で活躍する皆さんにとって、災害から身を守ることは他人事ではなく、皆さん自身の現実の問題として心に留めておいていただきたいと思います。
この他にも多様な分野で、多くの克服すべき諸問題を私たちは抱えているわけであります。大事なことは、皆さんの学びと研究の中で鍛えてきた知の力は、ご自身の宝であると共に、人類共有の財産として活かして行かなければならないということなのです。
皆さんが愛媛大学で培った知の力をいかんなく発揮され、未来の可能性に果敢に挑戦し、活躍されますことを心から願いまして、はなむけの言葉と致します。
平成18年3月24日
愛媛大学長 小 松 正 幸
経営企画部総務課総務・秘書チーム