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HISTORY 〜理工学研究科電子情報工学専攻 天野 要 教授〜

平成26年3月末退職の理工学研究科電子情報工学専攻 天野 要 教授から大学での思い出を寄せていただきました。

愛媛大学の思い出

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長年愛用した研究机の前にて

 愛媛大学には昭和61年4月、工学部助教授として赴任し、 以後28年間を松山で過ごしました。それまでは、京都大学から北海道大学に移られた先生を追って、博士課程から札幌にいました。学位論文の内容は宇宙プラズマの粒子模型による計算機実験で、大学院修了後は北海道大学大型計算機センター助手として黎明期の大学間ネットワークやデータベースの運用を担当していました。赴任当初の所属は数学の共通講座でした。以後、数値解析を中心に、応用数学と情報科学の分野で生きることになりました。
 愛媛大学では、まず新しい研究課題の設定に悩みました。学生時代から電気数学や物理数学は好きでしたが、これから始める研究対象としての数学となると話は別です。そんなある日、おそらくは生協食堂への道すがら、泰山木の並木の大きな白い花に気付きました。北海道大学の印象が強く残っていて箱庭のように感じていた愛媛大学の構内は意外に緑が豊かでした。近年、緑が少なくなり、泰山木も元気のないのが気がかりです。
 研究については、間もなく代用電荷法による数値等角写像という課題に巡り会いました。ご存じの方も多いと思いますが、等角写像は関数論の基本的な問題の一つで、理工学に広く応用されます。しかし、その写像関数を厳密に記述できる場合は限られています。数値等角写像は電子計算機が開発されて間もない20世紀半ばから数値解析の重要課題として研究されていましが、なぜか、国内の研究はあまり見当たりませんでした。代用電荷法による数値等角写像の方法を提案した最初の論文は昭和62年に情報処理学会論文誌に掲載されました。この方法は、従来の積分方程式法と比較して原理と計算が非常に簡単で、様々な領域の問題に対して一定の条件下では、簡潔で精度の高い近似写像関数を具体的に与えることができます。研究は思いがけず発展し、情報処理学会創立30周年記念論文賞、日本応用数理学会平成8年度論文賞、情報処理学会創立40周年記念論文賞を頂戴するという幸運に恵まれ、海外でも知られるようになりました。また、この間、人の最も基本的な情報処理の機能であるパターン認知に関する研究にも取り組みました。この研究では、認知系の数理モデルを構成し、その妥当性を心理学実験と統計解析で検証するという方法で、パターンの良さと類似性という異質な認知判断に統合的な説明を与えることができました。
 愛媛大学では、数学、情報、心理学と様々な分野に関係しながら良き師と仲間に恵まれて充実した研究生活を送ることができました。退職後もこの松山で趣味の研究を続けたいと思っています。愛媛大学とお世話になった多くの方々にあらためて感謝を申し上げます。