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東京大学・加速器研究機構・愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターらのグループが高圧鉱物中にミュオニウムを発見しました

 東京大学・高エネルギー加速器研究機構・愛媛大学などの共同研究チームが、石英の高圧型鉱物であるスティショバイト中において、原子状態の中性水素が存在する可能性を明らかにしました。
 水素は太陽系において最も豊富に存在する元素であり、これと酸素が化合した水は地球表面の70%を占め、生物界を支える基本的な構成要素です。水素は地球内部においても、含水鉱物などの形で相当量が存在すると考えられています。これまで含水鉱物中では、水素は水酸基(OH)として結晶構造に取り込まれると考えられてきました。  本研究では、水素が水酸基としてではなく、原子状の中性水素(H0)として地球内部の鉱物中に存在する可能性を、ミュオン・スピン回転(µSR)法(注)を用いて検討しました。測定に用いられたのは石英(SiO2)の高圧相であるスティショバイトで、地球内部において重要な鉱物です。
 測定の結果、スティショバイトに注入されたミュオン(陽子の軽い同位体に相当)の多くが、ミュオニウム(中性水素に相当)として結晶格子の隙間に存在することが明らかになりました(図1)。この発見は、地球の深部マントルに、これまで想定外であった中性水素が存在する可能性を示唆するものです。今後、地球内部における水素の循環や、地球の進化・ダイナミクスの解明に向けて、高圧鉱物研究の新しい展開が期待されます。
 本研究は、東京大学の船守展正准教授・高エネルギー加速器研究機構の門野良典教授らを中心に進められました。ミュオン・スピン回転法による測定には多量の試料が必要であり、測定に用いられたナノ多結晶スティショバイト(図2)は、地球深部ダイナミクス研究センターの大型超高圧装置BOTCHAN-6000を用いて合成され、西山宣正准教授(現ドイツ放射光研究所研究員)・入舩徹男教授から提供されました。
 本研究成果はネイチャー出版グループのオンラインジャーナルScientific Reportsの2月13日号に発表されました。

図1:異なる方向から見たスティショバイトの結晶構造。スティショバイトを構成するケイ素(Si)は、6個の酸素を頂点とする8面体の中心に存在する。本研究では、このような8面体の空隙(白色部分)に、注入されたミュオンがミュオニウムとして存在することを示した。
図2:地球深部ダイナミクス研究センターで合成されたナノ多結晶スティショバイト。

(注)ミュオン・スピン回転(µSR)法は、物質を構成する原子の隙間に注入したミュオン(ミュー粒子)を超高感度の磁気プローブとして用いることで電子の状態を観測する実験手法。注入・停止したミュオンの周り0.5ナノメートル程度の局所的な情報が得られ、放射光X線などによりもたらされる長距離にわたる情報とは相補的な関係にある。

発表論文

論文タイトル
Muonium in Stishovite: Implications for the Possible Existence of Neutral Atomic Hydrogen in the Earth’s Deep Mantle, Scientific Reports 5, 8437, doi:10.1038/srep08437, 2015.

著者
Nobumasa Funamori, Kenji M. Kojima, Daisuke Wakabayashi, Tomoko Sato, Takashi Taniguchi, Norimasa Nishiyama, Tetsuo Irifune, Dai Tomono, Teiichiro Matsuzaki, Masanori Miyazaki, Masatoshi Hiraishi, Akihiro Koda, Ryosuke Kadono

関連リンク先

地球深部ダイナミクス研究センター
論文リンク先
Scientific Reports