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平成22年学長年頭あいさつ

平成22年1月4日(月)、グリーンホールにおいて、柳澤康信学長が、教職員を対象として年頭のあいさつを行いました。

皆さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 今年の3月で第1期の中期目標期間が終わって、4月からいよいよ第2期の中期目標期間に入ります。お手元の第2期の中期目標・中期計画の原案には、チャート式の愛媛大学の目標、計画が全て載っております。それから、裏には前文が載っています。今日は少しこれに触れながら、これから愛媛大学が進むべき方向性について30分ほど話をさせていただきたいと思います。

 最初に、皆さんが非常に関心のある予算のことについてです。結論を言ってしまいますと、まだよく分からない。年末の時点では、4日以降に明らかになるということでしたが、残念ながら今日の時点では、まだはっきりした情報は得ておりません。予算に関しては、昨年の11月から12月にかけて、行政刷新会議のワーキンググループの事業仕分けにかなり振り回されたようなきらいがありますが、文科省のホームページに寄せられた意見は全国から15万3千件にも上っているそうです。これを文科省で整理して、どういう案件があったかというのをまとめており、これに対する回答もしております。このことと関係して、文科省の田島主計官という方が、「平成22年度文教科学技術予算のポイント」という数ページのものを出されております。その中で我々にとって関心の高いところで、こういう表現があります。「事業仕分けにおける評価結果を反映しつつ、国立大学法人等における教育・研究活動に必要な基盤的経費を確保、また、医師不足や就職難といった社会的ニーズに対応した様々な取り組みを支援」というふうに書かれております。
 今のところ分かっているのは、運営費交付金については国立大学法人全体で1兆1585億円、これは前年度比でマイナス0.94%になっています。この内訳はまだわかりません。ご存じのように運営費交付金というのは基礎的な部分と、特別経費という部分に分かれており、基礎的な部分に関しては効率化係数1%がかかっていましたが、これが第2期についてどうかなるかは現在のところ不明です。ホームページにおいてはこういう表現をしております。「特別経費についてはプロジェクト経費の見直しなどにより、要求額の一部縮減を図りつつ、事業自体は引き続き実施してまいります」となっていて、特別経費のほうをより削減するのではないかと予想されます。そうしますと基礎的な部分についてはひょっとしたら無傷になるかもしれません。これは今のところ、財務部でもまだ正確な情報は掴みかねているという状況であります。それから、科研費については前年度比で1.5%増ということになっております。
 事業仕分けの時にいろんな騒動が起こったわけですが、今でもまだ非常に心配なのは、グローバルCOE、それから地域科学技術振興・産官学連携事業です。特に後者は廃止という結果を受けております。今日得た情報で少しほっとしているのは、産官学連携で愛媛県と愛媛大学が行っている「都市エリア」事業に関して、継続分についてはそのまま実施するということになっています。南予水産研究センターにかかわることですが、1億円については大丈夫というような情報を得ております。今回明らかになったのは、政権が変わると政策が変わってしまうということで、これはある意味当り前なのですが、国家の在り方の軸になるような部分まで政権交代によって変わってしまうというのは非常に問題だと思います。これはまだ、日本が政権交代をまともに経験していないというところに原因があると思われます。当然のことながら、政権交代によって外交とか安全保障などが大きくぶれてはまずい。それと同じように、教育・研究の根幹になる部分についてぶれてしまうのはまずいと思います。今しばらくは、こういった混乱がかなりあると思いますが、地方の大学としてあまりオロオロせず、短期的に振り回されないようなスタンスが非常に大事なのではないかと思っております。

 さて、第1期、6年が過ぎようとしているわけですが、法人化して我々の何が変わったのかを見ていきたいと思います。法人化によって、目標を立て、計画を立て、評価を受けるというPDCAサイクルが動き始め、ちょうどワンサイクル終わったというのが今の状況です。昨年、愛媛大学で講演していただいたNIADの川口理事は、それを評価文化というふうに表現され、それらは決して特別なものではなく、日常化しなければいけないという主旨のことを言われておりました。その評価文化導入のプラス面というのは間違いなくあると思います。我々は、国立大学の時代から目標、計画を暗黙裡のうちに立てているという状態にあったと思います。それを非常に明示的に表現せざるを得なくなった、するようになったということで、構成員が目標、計画を共有化しやすくなった、構成員のベクトルを合わせる上で有効であったというプラス面があると思います。
 しかし、その一方で川口理事がおっしゃる評価文化というのはまだまだ日本においては未熟です。暫定評価や年度ごとの業務実績評価の結果を見ますと、とくにその感を強くします。それは、長所を伸ばすのではなく、短所をあげつらうようなやり方になっているということです。一つ例を申し上げます。平成20年度の業務実績評価の分厚い冊子が各大学に配られておりますが、そこに各大学の評価結果が載っております。皆さんご存知のように、「順調」というのは5段階で4です。愛媛大学は4項目全てにおいて4だった、「順調」である。3という評価は「概ね順調に進んでいる」という評価になりますが、例えば、大学名を挙げて申し訳ないですが、高知大学はある項目について3という評価を受けています。それは、 22項目中21項目はOK、ただ1項目について年度計画が十分に実施していないというふうに判定されて3になっているわけです。その内容は何であったかというと、高知大学は中期計画で外国人教員の2割増を目標とすると書いています。しかし、平成19年度から20年度にかけて外国人が増加していないという理由で3にされてしまったわけです。また、広島大学は、年度計画においてエネルギー削減目標を前年度比1%というふうに掲げましたが、それが実現されてないということで3になってしまった。実は、あの評価にはこの程度の根拠しかないということです。別に揚げ足を取ろうというのではありませんが、非常に短所をクローズアップするような評価の仕方になっています。これは非常にまずいと思います。評価文化が根付くためには、むしろ長所を取り上げるというような仕組みにしないとまずいと思っております。
 そういう意味においても、事業仕分けや暫定評価、年度評価などで受ける評価に対しては、先程言いましたように「一喜一憂しない」、それから「右往左往しない」というスタンスが重要であると思います。愛媛大学としてはこれから日本の情勢、世界の情勢を戦略的に分析しながら地域にある総合大学のあるべき姿を提示して、それを実現するという気構えが必要でないのかと思います。

 これから少し教育、研究、社会連携、国際連携の各領域について述べますが、今日は、特に「強みを見つける」、あるいは「強みを伸ばす」という視点から話をさせていただきます。
 まず教育に関してですが、今日お配りした資料の前文を見ていただきたいと思います。3行目の「学生の人間的成長に重点をおいた教育の推進」、そして「地域の発展に貢献できる国際性を備えた人材の育成」というのが第2期の教育に関する重要課題です。そして、基本目標として、「全学的に一体感のある教育改革を推進し、正課教育及び正課外教育において学生の主体的、協同的な学びを充実させる」ことを掲げております。
 教育に関して、現在、全国的に見た場合の愛媛大学の強みというのは何であるか。これは、いろいろ挙げられますが、一つはFD及び教育改革については全国的に一歩先んじている部分があるのではないかと思っております。現在、平成20年度に採択された文部科学省戦略的大学間連携事業SPODで、四国の他の高等教育機関と一緒にネットワークを作ってFD、SD活動をしております。これは他の地域においてはまだ見られないもので、これからも伸ばしていく価値があると思っております。ネットワークではFD、SDのプログラム開発を行っており、本学でもティーチング・ポートフォリオ、スタッフ・ポートフォリオを導入することを決めておりますが、そういうものの充実がこれからの課題になっていくのではないかと思っております。
 それから教育に関してもう一つ。今、愛媛大学においてかなり緊急の課題なのは、高大連携・高大接続の部分です。ご存知のとおり農学部附属高校が2年前に愛媛大学附属高校になりました。第1期生が次年度に3年生になりますが、彼らは大学で課題研究という授業を受けるようになります。125人全員が愛媛大学で、通年2単位ですが、どこかの研究室に配属されてテーマを持って研究することになります。これは大学としてもかなり大がかりな事業です。その高大接続に関して、12月に東京で国大協の主催による高大接続ワークショップというのがございました。出席した学長特別補佐の松本長彦さんから受け取った報告書の中に、その時の講演者、識者の方から見た日本における現状について、こういう表現があります。「高校と大学における学習は、学習者からみれば連続した学習機関であるはずであり、両者の接続は当然であるはずなのに、現状は分断されており、入試だけが繋いできた。高校の教育内容を大学側が入試だけでコントロールしてきた。」これは事実だと思います。この課題を克服するためには、従来の大学入試センターを代表とするテストで測られる学力、すなわち「大学に入るための学びによる学力」から、OECDがやっているPISA型。これは、「生きていくための学びを支え、またそれによって培われる学力」というふうに定義されていますが、そういった課題発見・解決型の学力にわれわれの学力観を転換する必要があります。そういった課題がある中で、日本の高大接続をどうしていくのかということが問われております。いま、愛媛大学は各学部の協力によって附属高校との高大接続教育を積極的に行っています。また、入試制度改革を行って、平成23年度からAO入試、推薦入試の枠を広げることにしました。こういった改革は、今日の日本の学校現場の求めに応えるものであり、我々が高大接続・高大連携のところをきちんと取り組めば、日本におけるトップランナーになれるのではないか、本学の強みになる可能性があるのではないかと思っております。

 次に研究面ですが、これも第2期の前文を見ていただきたいのですが、「特色ある先端研究拠点の形成・強化」を重要課題にしています。それから基本目標として、「環境生命に関わる世界レベルの研究を一層活発に展開するとともに、質の高い多様な研究を進展させる」ことを述べています。研究面において強みを伸ばすという側面から言うと、何といっても愛媛大学は3つの先端的研究センターを持っていることだと思います。これに関しては今さら詳しく言うまでもないのですが、これから愛媛大学において問題になるのは、こういう先端的研究センターにおいて、いずれ第1世代がリタイヤすることです。そうすると、次の世代にどう引き継いでいくのかということが非常に大きな課題になってきます。今までは、大学憲章にも述べているように、有望な分野を組織してセンター化するということが大きなテーマになっていました。それはこれからも重要なのですが、既存のセンターについては、例えば学内のほかの分野と連携しながら新たな展開を図る、あるいは時代の先を読みながら、中心課題をシフトさせるというようなことが重要になってきております。実際、沿岸環境科学研究センターや地球深部ダイナミクス研究センター、無細胞生命科学工学研究センターにおいて、その辺が模索されています。そういう模索に対して、やはり全学的にサポートする必要があるのではないかと思っております。それから先ほど少しふれましたが、次の愛媛大学の芽を作っていくためには、分野横断的な研究を大学として積極的にサポートすることが重要であると思っております。そのほか、若手研究者支援、また、新たに愛媛大学に着任した人に対するスタートアップの支援を充実させるために、従来の研究開発支援経費の枠組みを変更する検討を進めております。

 次に社会連携です。これも前文のところを見ていただきたいのですが、基本目標として「地域連携・産官学連携を強化・拡充し、地域活性化に資する人材育成と学術研究を推進する」と述べています。当たり前のことを書いてあるように見えますが、これは非常に重要であると認識しております。昨年4月の新体制発足時のあいさつでも少しふれましたが、地域に拠点を置く大学として、社会貢献・社会連携はプラスアルファの機能ではなく、本来的な機能であるという認識が重要だと思います。法人化後、愛媛大学は多くのことに取り組み、地域における存在感が高まっています。その結果、地域連携の質は着実に向上し、地域からの期待も高まっており、これからは地域の知の拠点として地域の活性化や発展に「責任を負う」という心構えが必要なのではないかと思っております。小松前学長が任期の最後に「地域の発展を支援する大学から、地域の発展に責任を持つ大学へ」というふうに言っておられましたが、そういった方向に徐々に変えていく必要があると思っております。

 国際化、国際貢献についても、前文のところを見ていただきたいと思います。「国際社会で活躍できる人材を育成するとともに、アジア、アフリカ拠点国への教育・研究支援を進める」という基本目標です。その中で、第2期において特に重要だと思っているのは、「世界に通用する人材の育成」。これを一つのキャッチフレーズにしたいと思っています。中期計画の59番に「日本語短期研修、インターンシップなど短期に留学生を受け入れるプログラムを充実させる」というのがあります。これは受け入れるほうですが、61番では「学生が海外で学習する機会を増やすために、海外派遣、海外インターンシップを推進する」ということで、愛媛大学の日本人学生の海外経験の機会を増やすことに重点を置いていきたいと思っています。現在、検討を進めてもらっているのですが、こういったプログラムの開発のために、新たに学内GPを立ち上げる予定です。
 それからこれも国際連携に関わることですが、昨日、南海放送テレビで本学がコーディネートしたインドネシア訪問団の30分番組が放送されました。観られた人も多いかと思いますが、学外の人から、「ああ、愛媛大学はこんなこともやっているのか」という感想がありました。これは、その人にとって新しい発見だったようです。今回のインドネシアとの交流は、我々の理念では、local to localです。日本のある地域、愛媛大学だと当然愛媛県ということになるのですが、ある地域と相手のある地域との、中央を介しないダイレクトな連携のことです。地域と地域が連携することで、愛媛という地域において作り上げている県や市、企業、金融機関などとのネットワークを活用して、地域が有する様々な資源を総合的に相手の地域に移転する、あるいはいろんな面で連携するということが非常に重要で、その際の本学の役割はコーディネートすることです。これは社会連携の発展型とも言え、本学の新しい強みになる可能性を秘めています。

 次に管理運営・組織について述べたいと思います。管理運営・組織に関する基本目標は、「大学の自律性を高めるために、不断に組織運営の改革を図るとともに人材育成マネジメントを充実させる」ですが、組織に関して第2期に取り組まなければならないことがいくつかあります。その一つは、これは中期計画でも述べていますが、平成24年度を目途に先端中核センターを中核とした新しい研究科組織を立ち上げること。これは独立研究科のことですが、現在、武岡先生を中心に準備を進めてもらっています。これが一つです。二点目は、中期計画には書いていませんが、法文学部に関することです。ご存じのように法文学部は学内二学部制をとっています。対外的には1学部ですが、学内的にはできる限り独立した学部として扱うということで約5年が経過しました。ただ、第2期もずっとこのままというわけにはいきませんので、できればこの状態を発展的に解消したい。これはぜひ取り組まなければならない課題です。もう一つは教員養成に関することです。今、教育学部は教員養成について「地域連携実習」などいろいろ工夫していますが、教育学部以外の学部の学生が教員免許を取る時に、質の保証の点で問題があると文科省から指摘されています。そこで教員養成に関する質保証が第2期の課題になると思います。すでに、教育学部で検討を始めてもらっており、仮称ですが、教職総合センターといった全学的な総合センターを立ち上げ、そこが司令塔となって初等中等教育の教員養成の企画・実践を行うようにしていきたいと思っております。

 今後、愛媛大学の組織のありかたをどう考えるのか。以前にもお話ししましたが、組織というのは本来的に階層的になっています。その上位の階層の機能が明確である、例えば全学の機能が明確であって、その下位の階層、例えば学部というものの主体性、自立性が保たれているという状態、これが理想的な状態だと思います。では、愛媛大学の現在の状況はどうかということになりますが、楽観的な言い方になりますが、組織面ではかなりいいところにいっているのではないかと思っております。愛媛大学の強みのひとつは、これは小松前学長も言っておられましたが、学部間の垣根が低いということですね。これは大きな財産だと思います。他の大学の方からしばしばうらやましがられますが、そういった利点を活かして、これから全学と学部がもっと有機的なつながりを持つことが必要です。学部を仮に縦糸とすると、横糸として4つの機構を立ち上げているわけですが、そのような縦糸と横糸のバランスをうまくとっていけば、非常にいい組織ができるのではないかと思います。そして、あらゆる編み目において教職員が連携しながら活動する。そういったイメージが良いのではないかと思っております。
 高い組織力をもつ大学にしたいというのは私の念願ですが、いくつか重要なポイントがあります。一つは当然のことですが、「理念・目標を共有する」ことです。2番目は、「学長及び執行部の先見性とリーダーシップ」。これは学長と執行部にとってはかなりきついことですが、特に今日のような先行き不透明な現状においては、先ほど言いましたように、あまり短期的に振り回されずに、大局観を持つ必要があるのではないかと思います。それから3番目は、「教職員の役割分担と協働」。教員間、あるいは職員間、あるいは教員と職員間の役割分担と協働というのが非常に重要になっていくと思います。構成員一人一人が自分の能力を最大限に発揮できる環境、そういう環境を整えていきたいと思っております。そのためには、重要なのはメンバーの間のコミュニケーションです。例えば、教員でも職員でも個人評価が始まっていますが、そこでの面談であるとか、あるいはティーチング・ポートフォリオやスタッフ・ポートフォリオにおけるメンターとメンティー間のコミュニケーションを通じて、構成員間の信頼関係を築いていくということが非常に重要ではないかと思っております。以前、「信頼ほど有力な省力化はない」ということを申し上げました。他の大学で、ベクトルがいろんな方向を向いて妙な軋轢が生じ、なかなかうまくいかないということをよく耳にしますが、愛媛大学では幸いそういうことはあまりないということで、組織力を強化することに関してはアドバンテージがあるのではないかと思っています。

 ここで現実的な話を一つしておきたいと思います。今日出席されているかなりの人は幹部職員ですね。部長、課長、室長の方が多いと思うのですが、愛媛大学は不幸なことに年齢構成が非常にアンバランスです。事務の方はよくご存じで、教員の方はあまりご存知ではないかもしれませんが、次年度3月で退職を迎える部長、課長、室長は48人のうち15人にのぼります。これは3割強です。22年から24年の3年間では48人中27人、6割ぐらいが退職されます。これは組織上の危機です。今まで職員間で蓄積されてきたノウハウが当然あると思いますが、そういうものが次の世代に継承されていくかどうか、これが大きなポイントになるのではないかと思っています。ですので、今言った中に入る人は、ぜひ自分が蓄積してきたノウハウをここ1、2年で意識的に若い人に伝えていただきたいと思います。

 最後になりますが、愛媛大学が、先端的な学術研究だけではなく、組織の在り方、教職員の能力開発、教育内容・教育方法、あるいは社会連携、国際連携といったいろんなところで光る大学になるよう、皆さんと一緒に愛媛大学のモットーにある「地域にあって輝く大学」を実現していきたいと思っております。

 ご清聴ありがとうございました。皆さんにとって良い1年でありますように。