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HISTORY~大学院理工学研究科電子情報工学専攻ICTスペシャリスト育成コース 山戸 昭三 教授~

 平成27年4月に、本学理工学研究科教授として着任しました。私は日本電気株式会社に勤務し、自治体市場を対象としたシステムエンジニア、プロジェクトマネージャ、PMOを経験しました。NEC在職中から日本経団連による大学教育支援の一環として筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻教授(産学連携)として、プロジェクトマネジメント授業やPBLを通じた学生と企業経営者とのコンタクト、学生によるITソリューション提供の指導を行ってきました。また、企業に在籍していた頃から、実施した仕事を纏める意味で、中小企業診断士、技術士(情報工学部門、総合技術監理部門)、ITコーディネータ、PMP(Project Management Professional)等の資格や北海道大学から博士(情報科学)の学位を取得しました。縁あって本学に採用され、プロジェクトマネジメント特論、技術者倫理特論、品質マネジメント、IT経営プロジェクト、システム監査、共通教育科目“現代と科学技術”などの授業を担当し、学生の皆さんが社会や企業で活躍するために必要な知識、技術、考え方を教え、社会や実在する企業を対象とした学生の特定課題研究の指導をしました。本年3月31日に本学での定年退職を迎えます。

 筑波大学時代から実務家教員として、博士前期課程の学生にプロジェクトマネジメントの知識とスキル、それを活用したPBL型の教育や特定課題研究の指導を行っていました。PBL型の教育とは、学生が社会や実在する企業とコンタクトし、組織のトップの方や現場の方にヒアリングし、業務の問題点を抽出し、ITソリューション(ITを使った解決策)を企画し、顧客の合意を得たうえで、システム開発を行い、成果物をきちんと納品するという教育プログラムです。その過程と成果が学びであり、それを論文または報告書にするというものです。
 学生にとって、それまで学んだIT知識やスキルを活かしてチームワークを発揮しながら、プロジェクトマネジメントを実践し、現実社会や実在する企業の役に立つものを創り出し、顧客の喜んでくれる顔を見ることに大きな教育効果が期待されます。

 私は、この実社会とのコミュニケーションを通じたPBL型の教育効果をさらに高めるためには、いくつかの留意点があると思います。
 一つ目は、この現実社会を対象とした教育の場を設定する段階で、指導する教員は、顧客に対して、“PBLは教育プログラムである”という認識を共有し、合意し、覚書を交換することが必要です。教員は、“教育的に良好な顧客”を抽出することが重要です。
 二つ目は、顧客自身が自分の組織への変革シナリオを持っていることが重要です。教員は、事前にインタビューして、業務に対して問題認識を持っている顧客を選ぶことが大切です。何をやってもいいですよ、というような顧客は対象とすべきではありません。
 三つ目は、学生チームと敬意をもって対等に接してくれる顧客を選ぶことです。学生は半年から一年間継続してこの顧客と交渉、調整、合意などを繰り返すことになります。そのためには、適度な緊張感を維持できる姿勢を持っている顧客を選ぶことが大切です。
 PBLの進め方は、最初に、教員は学生を顧客に紹介します。その後は、学生自らがさまざまなコミュニケーションスキルを使って、自律的に顧客とコンタクトします。コミュニケーションスキルとは、単に仲良くするとか、会話できるということだけではありません。大切なことは顧客から信頼していただくということです。打ち合わせの時には、顧客の表情や言葉の背後にある要望、描いている業務のシナリオ、など、様々な非機能要求を聞き出すことが大切です。何度かの対話を繰り返す中で、仮説を立て、検証し、解決策を顧客および学生同士でしっかり共有することが大切です。
 私は、学生による論文や報告書の中間発表には、彼らが顧客とのコミュニケーションで獲得した非機能要求を確認するようにしています。なぜ、そのITソリューションが必要なのか、どのような場面でどのようなエンドユーザがそのシステムを使うことを想定しているのか、顧客の業務課題の達成にそのITソリューションが最適である理由を説明して欲しい、といったことを聞きます。社会や企業が、頼りにしている学生とは、顧客の意向を確認しながら自律的に行動できるような人材です。

 二年間過ごした松山市は、雪も少なく、地震もなく、穏やかな気候の地域でした。大学の裏には沢山の神社仏閣、ロシア兵墓地があり、松山城や道後温泉など国内有数の観光地です。毎日、ちんちん電車ののんびりした動きを見ながら、またかんかんとなる遮断機の音を聞きながら大学に通った日々を懐かしく思い出しています。おかげさまで充実した愛媛大学、松山生活を過ごすことができました。
 4月からは、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授として勤務します。担当する授業は、生産マネジメント、経営情報戦略、プロジェクトマネジメント、学生の企業実習の指導などです。これまで培った経験と知識を活用して引き続き教育活動に従事します。
 多くの方に大変お世話になりました。最後に、皆様のご健康と愛媛大学の益々のご発展をお祈り申し上げます。