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インドネシア3大学と愛媛大学との学術交流協定の推進−愛媛大学チームのインドネシア訪問報告−

インドネシア3大学との交流協定の締結

 愛媛大学は平成19年6月、インドネシアのゴロンタロ大学、ハサヌディン大学、ガジャマダ大学と交流協定を締結しました。これは、これまで農学部を中心に進められてきた学術交流や留学生受け入れをさらに発展させることを目指したもので、実績のあるガジャマダ大学、ハサヌディン大学との交流拡大はもとより、これまで目立った実績の無かったゴロンタロ大学との交流を、これを契機に実質的に始めることを意図したものです。ゴロンタロ大学のネルソン学長は2年前に愛媛大学を訪問され、協定締結に強い意欲を示していました。
 今回は協定締結に伴って学長が3大学を表敬訪問し、愛媛大学のインドネシアにおける国際戦略を展開するための打ち合わせを行い、現在進行中(準備中を含む)の案件を推進させることが目的でした。期間は平成19年10月13日(土)から21日(日)、参加者は小松正幸学長夫妻、亀井崇副学長、遅澤克也農学部長補佐、米澤愼二総務課長の5人でした。

報告内容

●ゴロンタロ大学(北スラウエシ、ゴロンタロ市)
 ・Marine Station訪問
 ・Bogani Nani Wartabone国立公園の見学
 ・研究教育協力の話し合い
●ハサヌディン大学(南スラウエシ、マカッサール市)
●ガジャマダ大学
●インドネシア3大学訪問感想(学長 小松正幸)

ゴロンタロ大学(北スラウエシ、ゴロンタロ市)

 

インドネシアはイスラム教国で、私たちが訪問した10月13日から24日はラマダン明けの正月休暇中であり、大学も休みでした。しかし、どの大学も日本の大学から学長一行が来るということで、日程を調整して、学長をはじめ主要な人物に会うことができました。特に、15日から3日間滞在したゴロンタロ大学では、愛媛大学の訪問団を全学的に受け入れてくれました。
 10月15日午前の協議には、ゴロンタロ大学からは学長ならびに副学長、全学部長、全学科長等が出席され、 次のことが協議されました。

1) ネルソン学長の挨拶。愛媛大学との交流の経緯などが改めて紹介された。
2) 小松学長から、愛媛大学の取り組みを紹介。
3) その後の質疑で、農学関係だけでなく、両大学の全学的な交流を促進すること。

 ゴロンタロ大学は日本の大学との交流を強く望んでおり、学生の留学や学術交流を支援するために日本研究促進センター(Center for Promotion of Japanese Study(CPJS))までつくるという熱の入れようです。ここを見学しましたが、一見して日本の情報、学習資料が極めて不十分。日本の民謡や童話のCDを提供する、愛媛大学のパンフレットや教育プログラムの資料を定期的に送付する体制をつくる必要があります。

Marine Station訪問

 当日午後は大学新設のMarine Station(Olele村車で約40分)を訪問しました。今回の訪問を機に、ゴロンタロ大学としては、これまで計画してきたMarine Stationの立ち上げを促進させることにねらいがあったようです。ゴロンタロ州からの財政援助を受けて、用地買収などの準備が一気に実行されているそうです。この日の愛媛大学の訪問は、Marine Stationの発足式を兼ねていました。
  発足式のあと、Marine Station周辺海域の見学、Marine Stationの近距離の海域に見事な珊瑚礁が発達し、保全されています。魚影も極めて濃く、海は澄んでいました。小松学長は海岸付近を散策し、衝上断層を発見、活断層ではないかということで、注目を集めました。

Bogani Nani Wartabone国立公園の見学

  熱帯の山中を約2時間、沢沿いに遡行して珍しい木々を見て歩きました。熱帯の木には花をつけるものが多く、果物のなる木が多い、というのが素人の感想です。

研究教育協力の話し合い

  その日の午後、ゴロンタロ大学の学長、副学長以下、全学部長、全学科長等が出席して、愛媛大学との研究教育協力についてのフォローアップの会議が開催されました。

1) 遅澤から、今までのゴロンタロ大学からの留学申請の問題などが指摘され、CPJSの改善案が提示された。
2) また、遅澤はゴロンタロ大学の研究戦略として、ゴロンタロの自然生態の把握を目的とする基礎研究の充実を訴えました。動・植物の分類、昆虫学、地質学、民俗誌、農林水産業史などを組み合わせた共同研究の提案(そのための外部資金の獲得)。

  さらに、多数の学生も参加してフォーラムが開かれました。ここでは小松学長から、Marine Stationの見学(Olele村)、Bogani Nani Wartabone国立公園の見学を踏まえて、Environmental Geology分野の設立が提案され、ネルソン学長等からはこれを受け入れる旨の発言がありました。地質学関係の教室ははじめてですので、その立ち上げには専門家の派遣、愛媛大学の大学院生の派遣を含め、相当の支援が必要です。また、ハサヌディン大学、ガジャマダ大学へも、ゴロンタロ大学のこの分野開設に向けての協力を要請することにしました。

ハサヌディン大学(南スラウエシ、マカッサール市)   

ハサヌディン大学のイドラス・パトゥルーシ学長はラマダン明けの休暇のため、14日しか取れないということであったので、ゴロンタロ大学に向かう途中、急遽マカッサール市内の学長公邸で会談しました。ここでは、ハサヌディン大学が実施する防災対策国際トレーニングコース(International trainning Course for Disaster Risk Reduction)の開催(11月26日から12月5日)に愛媛大学医学部の前川聡一講師(救急医療)を招聘したい旨の申し出がありました。
 医学部のフスニタンラ教授から、広島大学医学部の木下さんと本学医学部の前川さんへ特別講義「日本の救急医療」、「潜水病対策」などの特別講義要請の申し出がありました。
 市内のレストランで学長、副学長、何人かの教員と昼食会を行い、さらに交流について協議。ここでは、今後、表面的な国際交流ではなく、実質的な教育研究の協力関係を構築するための案件が協議されました。

協議の様子

1) 工学部強化にかかわる要請があり、早急に理工学研究科等で可能性を検討し、ハサヌディン大学に連絡することにした。
2) 離島群を対象とした基礎研究展開。遅澤の展開してきた海域世界研究と地域医療・病例(genotype)のインベントリー作成などとの連携研究の可能性。
3) 基礎医学分野を中心に愛媛大学医学部への留学生の受け入れ。

  ゴロンタロ大学訪問の後、10月18日に再びマカッサール市に行き、ハサヌディン大学を訪問しました。ハサヌディン大学は広大なキャンパスを保有し、赤い屋根付きの4〜6階建ての白い建物群からなる美しい大学です。14の学部からなり、学生数は2万5千人、教員数1781人(2006年現在)。
この日は前回の学長との協議をベースに具体的な話し合いを行いました。これにはパトゥルーシ学長の指示が徹底していて、副学部長(第3、第4)、学部長(14学部)等、総勢50〜60人が参集しました。ここでは次のことが確認されました。

1) 愛媛大学が、インドネシアの3大学との連携交流や共同研究をめざし、全体のコーディネーター的な機能を果たすように努める。また、ハサヌディン大学がゴロンタロ大学も含めたスラウェシ周辺大学への教育研究の調整役として機能すると同時に、愛媛大学も含めた日本から情報の受け皿として機能し、大学内外に情報発信する役割を期待。
2) 大学間協定、学生交流協定を利用し、さまざまな資金(基金)を組み合わせて継続的な学生交流、共同研究を推進する。
3) 当面は、ハサヌディン大学の将来構想の基幹となっている海洋研究を主体とする海域世界研究を、さまざまな基礎研究分野を取り入れながら展開する。

ガジャマダ大学

  ガジャマダ大学はジャワ島東部の古都ジョグジャカルタにあるインドネシアを代表する大学で、18学部を有し、学生数5万4千人、教員2,273人、職員2,240人という大規模大学です。ジョグジャカルタには大学が53校あり、人口3百万人のうち、学生が半数を占めるという学園都市です。
 ここでは10月19日午前、農学部でSusamto農学部長、Taryono副学部長(教育研究担当)との協議を行い、海外からの学生を対象とした「熱帯農業研修プログラム」が紹介され、愛媛大学の海外研修プログラムと調整し、学生募集を検討することを確認しました。
 さらに、昼食会には、Susamto農学部長、Irfan土壌・微生物学科長、Taryono副学部長(教育研究担当)、Ustadi水産学科長、医学部のEko講師、林学部のHaryono教授、農業技術学部( Fac.of Agricultural Technology )からAdi Djoko副学部長、Henrry講師、が出席され、次のことを確認しました。
 Adi Djoko 副学部長より、同学部の国際推進化の予算で、学部長アブドゥル・ロザック教授を伴って、愛媛大学を訪問し、実質的な教育研究連携の具体策を検討したい旨の申し出があった。テーマとしては、「(1)農林水産関係の中小企業での学生実習・インターンシップ」、「(2)インドネシアの森林地帯の鉱山開発跡地の環境整備」など。

広大な構内

  翌日には、ガジャマダ大学長と会談を行いました。ガジャマダ大学からはSudjarwadi学長、Susamto農学部長、Na’iem林学部長、Irfan農学部土壌・微生物学科長、Taryono農学部副学部長(教育研究担当)が出席され、次のような話をしました。

1) 愛媛大学とガジャマダ大学の教育研究協力は、当面Susamto農学部長とNa’iem林学部長を窓口として実施するようにSudjarwadi学長より指示が出された。ガジャマダ大学は、大学予算でSusamto農学部長、Na’iem林学部長を愛媛に派遣し、教育研究連携の具体的な計画を協議する用意がある。
2) Irfan農学部土壌・微生物学科長等を窓口として、ガジャマダ大学の「熱帯微生物研究センター」(IC.Biotec)と愛媛大学の「無細胞生命科学工学研究センター」との共同研究の可能性を検討する。

  また、20日にはNa’iem林学部長との個別に協議を行い、次のような話がありました。

1) Na’iem林学部長等のグループはドイツと共同で熱帯林保全研究事業を推進中。このスキームに愛媛大学の参加の可能性を検討したい旨の申しであり。
2) ゴロンタロ大学支援の一環として、ガジャマダ大学の植物分類、森林生態の分野のゴロンタロ大学との共同研究を検討。
3) 林学部のAtus Syahbudin助手を、農学研究科のAAPプログラムに応募させる。アトゥス氏はNa’iem林学部長の森林調査助手を長年勤める。留学後は、ゴロンタロでの植生調査を実施し、ゴロンタロ大学の植物分類の基盤形成に貢献させる。

インドネシア3大学訪問感想(学長 小松正幸)

  3つの大学を訪問して第一の印象は、インドネシアの大学の規模はとてつもなく大きく、私たちの大学とは比べものにならないが、教育研究面では教員の少なさ(そして少数の博士学位取得者)、不十分な設備など、どの大学もまだ発展途上の段階にある、特に、ゴロンタロ大学の場合のように、地方に行けば行くほど不十分さが目立ちます。第二に、日本との交流を強く求めているということ、教員のみならず学生たちの私たちに対する熱い視線を感じました。特に、ゴロンタロ大学の期待は大きいと思います。

 ガジャマダ大学の学部長クラスの教授は日本の大学に留学し、学位を取得した人たちが大変多く、欧米留学者を凌いでいるということです。学長の話では、早い時期にはアメリカへの留学が主流でしたが、つぎにヨーロッパへの留学が多くなり、現在は日本への留学が主流になっているということです。ここの農学部関係者には愛媛大学農学部への留学者が多数います。日本留学者が多いことはスラウエシ最大のハサヌディン大学の場合も同じです。ここでは医学部、工学部の教授達の多くは日本留学者で占められていました。

  日本に目が向けられるようになったのはなぜか。多額のODA援助の効果かもしれません。企業進出もその一つの要因かも知れません。しかし、最大の要因は、同じアジア人の国として、あの敗戦の混乱と疲弊、どん底の状態から奇跡的に立ち上がった日本に見習おうという意識、日本を一つのモデルとして学ぶという姿勢がある、ということを語ってくれた人がいました。それと同時に、留学経験者が一様に言っていたのは、留学時に世話になり接した日本人の親切さです。指導教員はもとより、大学職員、下宿のおじさんおばさんの親切は忘れられない、と。だから、後輩をつぎつぎ送り込み、やがて自分の子どもも日本の大学に送ってきているのです。この話は胸にしみました。大多数の日本人はこのようないい人たちなのです。

 我が国ではいま大学・大学院の国際化が叫ばれています。その主要な中身は国際的なレベルに教育研究の質を高める、外国人の教員をもっと増やし、英語による授業を普遍化する、ということです。その背景は日本の大学が欧米の大学に比べレベルが低く、また、日本語による授業というハンデがあり、外国からの優れた留学生を惹きつけることができない、そのため優れた留学生を研究者として、また、日本の企業に定着させることに著しい遅れを来している、ということにあります。

  我が国のみならず世界的に、企業は食うか食われるかの熾烈な競争に晒されており、日本はさらに、経済的には中国や韓国、台湾などに猛追され、追い越されている状況の中で、海外に人材獲得の熱い目を向けるのはあり得ることでしょう。しかし、我が国が自分のことだけを考えていたら、やがて諸外国からそっぽを向かれることになるでしょう。特に私たちはアジアの発展途上にある国々のことを忘れてはならないと思います。ここは互恵の精神をもって、相互の国が発展する方向で互いに協力し、支援することが必要だと思います。私は地方国立大学の国際化の方向はむしろそれに向けるべきだと考えています。

  インドネシアにしても、先に学術交流協定締結のため訪問したネパールにしても、教育研究面で私たちが支援すべきことは沢山あります。このような国へ学生とともに私たちが足を運んで現地の教職員や学生、住民と協働することの大切さを、身をもって感じた次第です。