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お知らせ

平成19年度「国際協力イニシアティブ」教育協力拠点形成事業 「生命科学を中心とした統合型理科教育に関する国際協力」

 平成19年度「国際協力イニシアティブ」教育協力拠点形成事業に、本学から申請した「生命科学を中心とした統合型理科教育に関する国際協力」が採択され、理科教育の現状調査と統合的理科教育法の実践のため、平成19年11月6日(火)〜11日(日)、タイのブラパ大学とカセサート大学を訪問しました。

 平成19年度「国際協力イニシアティブ」教育協力拠点形成事業とは、開発途上国における教育協力促進のため、大学のほか我が国の教育関係者等が有する教育研究上の知識や経験を調査・蓄積・体系化するとともに、我が国の知見を踏まえた教育協力モデルの構築・検証を行い、それらの成果を容易に活用可能な形式で公開することにより、国内外の援助関係者が教育協力の現場で活用可能かつ活用効果の早期発現が期待できる成果群を形成することを目的として、文部科学省が行っています。

「生命科学を中心とした統合型理科教育に関する国際協力」について

 「生命科学を中心とした統合型理科教育に関する国際協力」は、主として中国・東南アジア地区の高等学校、大学教養課程における生命科学分野を中心とした理科教育の現状を調査し、調査分析結果を踏まえ、生命科学に関する理科教育プログラムおよび実習・学習キットの開発を進め、当該地域の生命科学教育・理科教育の充実に協力することを目的としています。

目標

  先進国、開発途上国を問わず、食糧、医療、環境に関する問題が深刻化する一方で、青少年の理科離れが懸念されており、その解決には生命現象を正しく理解できる理科教育プログラムが必須です。生命活動は、セントラルドグマといわれる遺伝情報の流れを軸とした、物理や化学の法則に従った現象であり、タンパク質の機能と多様性を学ぶことによって科学的思考力の習得も可能となります。
  本学で実用化した無細胞タンパク質合成系は、生きた細胞を使わず試験管内の反応を利用してタンパク質を合成できるため、セントラルドクマの理解およびタンパク質の特性を学ぶ上でも画期的な技術です。
 本事業ではこの技術を活用した物理学、化学を含めての統合的理科教育法を東南アジア諸国において普及させることを目標としています。

生命科学教育プログラムと実験実習キットについて

 愛媛大学の教育改革促進事業の一環として、生命科学教育プログラムおよび実験実習キットの開発である「新しい生命科学教育法開発の試み−試験管内タンパク質合成法を基盤とした実習教材の開発と教育法の実施」が、既に進められています。
 遺伝情報に基づいたタンパク質の合成は生命活動の本質であり、この過程を試験管内において再現することができれば、生命の本質を分子のレベルで理解する上で非常に有効です。これに利用できる無細胞蛋白質合成系は愛媛大学において開発されたものであり、このような教材および教育プログラムを含む総合的な科学教育プログラムを構築することによって、一般の学生に対しても適切な理科教育プログラムの内容を提供できます。

生命科学教育プログラム
◆無細胞生命科学工学研究センター 遠藤弥重太センター長
  「新しい理科授業:私って、生き物って?−神秘的な生命の原理を探ってみよう−」
◆無細胞生命科学工学研究センター 林秀則教授
  「遺伝子のサイズは豪華客船!?−遺伝情報を使ってタンパク質をつくる−」

実験実習キット
●ブロッコリーからDNAを取り出そう!
●試験管の中でタンパク質を作ろう!

  タイ出張報告(平成19年11月6日11日)広報室 尾崎佳美 

[日程]
平成19年11月6日(火) 松山−関西空港−バンコク−チョンブリ
平成19年11月7日(水) チョンブリ視察
ブラパ大学Suchart Upatham(スーチャ)学長と夕食会
平成19年11月8日(木) ブラパ大学で理科教育法の実践
授業を受けた学生と夕食会
平成19年11月9日(金) チョンブリ−バンコク
カセサート大学附属高校で理科教育法の実践
Daranee Utairatanakit(ダラニー)校長と現状の教育体制について懇談
平成19年11月10日(土) カセサート大学理学部を視察
バンコク−
平成19年11月11日(日) −関西空港−松山

[参加者]
 無細胞生命科学工学研究センター 遠藤弥重太センター長、林秀則教授
 理学部4回生 井出 有紀、竹本 智恵
 広報室 尾崎佳美
[タイ王国(Kingdom of Thailand)について] ※外務省HPより抜粋
1. 基本情報
 タイは、51万4,000平方キロメートルと日本の約1.4倍の国土を有し、人口は6,242万人。大多数がタイ族で、その他に華僑、マレー族、山岳少数民族も生活している。宗教に関しては、95%が仏教で、4%がイスラム教を崇拝している。

2. 略史
 タイ王国の基礎は13世紀のスコータイ王朝より築かれ、その後アユタヤ王朝(14〜18世紀)、トンブリー王朝(1767〜1782)を経て、現在のチャックリー王朝(1782〜)に至る。1932年立憲革命。1932年の立憲革命以降、軍部主導の政治が続いたが、1992年の軍と民主化勢力との衝突(5月事件)以降、軍部は政治関与を控え、民主的な政権交代手続が定着している。

3. 経済
 1980年代後半から外国投資で急速な経済発展を遂げる一方で、経常収支赤字が膨張し、バブル経済が現出。その後、バブル破壊に伴い不良債権が増大し、経済の悪化を背景に、1997年為替を変動相場制に移行するとバーツが大幅に下落し、経済危機が発生。タイ政府は、国際社会の支援を受け、不良債権処理など構造改革や財政政策を含む景気対策、好調な輸出などにより低迷を続けていた経済は、その後回復基調に転じた。  
 2005年はスマトラ沖大地震及びインド洋津波被害等により若干減速し、4.5%の成長となった。2006年は、政変の影響が危惧されたが、5.0%の成長率を達成した。

ブラパ大学にて(6日〜8日)

●ブラパ大学について
 国立ブラパ大学の前身であるバンサン教育大学は、1955年に首都バンコク市以外で最初に設立された教育大学で、1990年国立総合大学ブラパ大学となりました。ブラパ大学は、バンコクから約100kmに位置するチョンブリ郡の海岸沿いにあり、バンサンキャンパスを中心に、3つのキャンパスがあります。学部・学校は、教育学部、理学部、工学部、海事学校など12学部・学校があり、大学院は8種あります。
 学生数は約12,000人で、教職員数は約800人です。 ブラパ大学とは、愛媛大学無細胞生命科学工学研究センターが2004年からマラリアワクチンの共同研究などで交流を深め、2007年5月学術交流協定を締結しました。

 6日は、ブラパ大学理学部生物学科のアンポーン(Amporn Thongkukiatkul)さんが空港まで迎えに来てくださり、約1時間かけて、チョンブリのブラパ大学へ移動しました。
 ブラパ大学は、265エーカー(約1.072平方キロメートル)と敷地面積が広く、学生は構内移動にバイクタクシーを利用していました。車の通行も多く、事故防止のために、道路のいたるところにスピード抑制の突起物を敷いていました。
 構内は一般の方にも開放されており、到着したのが夕方だったこともあり、ランニングや散歩をする多くの人を見かけました。学生は、学生服を着ており、先生に会うと手を合わせて会釈する姿が見られ、新鮮な感じがしました。

  7日は、チョンブリを視察しました。朝食は、海岸近くの食堂で、「カオトム」(日本で言うおかゆ)をいただきました。タイ料理は、スパイスが効いているという印象が強かったのですが、カオトムはあっさりとして、朝食には最適な食事でした。その後、実験で使用するブロッコリーなどを大型スーパーマーケットへ見に行きました。スーパーマーケットには、野菜や果物など何でもあり、ブロッコリーの値段は日本の値段とほぼ同じだったので、タイの人にとっては、少し高めの食材のようでした。
 夕食は、 Suchart Upatham学長、Pichan Sawangwaong(ピチャン)副学長、アンポーンさん等と大学近くの食堂でとりました。

 8日の午前中は、遠藤センター長と林教授、井出さんと竹本さんがアミノ酸のモデルづくりや実験キットの準備を行い、最終打合せを行っていました。昼食は、教育学部の食堂で食事をとりました。ブラパ大学には各学部に食堂があり、ヌードルやカレーなどスパイスの効いた食事が多くありました。食堂では、8月に愛媛大学を訪問されたブラパ大学教育学部の斎藤太郎助教授に偶然会い、林教授は近況報告を行っていました。

 昼食後、会議室に向かうと、セミナーを受ける学生たちが出迎えてくれ、Pichan Sawangwaong(ピチャン)副学長からこのプログラムの紹介と、「最先端の研究を行っている二人の先生から学べることは、とても幸せなことです。しっかり勉強してください。」という挨拶があり、記念品等をいただきました。

 実験室に移動し、早速プログラムを開始しました。受講したのは、9月に入学したばかりの1回生24人で、まず、林教授のセミナー「遺伝子のサイズは豪華客船!?−遺伝情報を使ってタンパク質をつくる−」と「試験管の中でタンパク質を作ろう!」の実験を行いました。実験では、井出さんと竹本さんの二人が、学生からの質問に答えたりや実験の補助を行いました。引き続き、遠藤教授のセミナー「新しい理科授業:私って、生き物って?−神秘的な生命の原理を探ってみよう−」を行い、人間の感情や行動など全てがタンパク質などの反応により生み出されたものであると、生命におけるタンパク質の重要性について話しました。
  10分ほどの休憩時間には、飲み物を持ってきてくれたり、名前や専門分野を質問したりと、早速学生同士は打ち解け、楽しそうに話をしていました。その後、もう一つの実験である「ブロッコリーからDNAを取り出そう!」を行い、受講生たちはテキストを見たり、林教授の説明を聞きながら、実験を行いました。実験は、ブロッコリーのDNAはほとんどの学生が取り出せましたが、試験管のタンパク質生成では、緑色に光るはずのタンパク質が一部を除いてあまり光らず、少々残念な結果となりました。

  夕食は、学生たち15人と一緒に大学近くのレストランでとりました。私の回りには、カンボジアからスカラシップで来た留学生とタイ北部の地方から来た学生が座っており、英語とタイ語と身振り手振りが飛び交う、楽しい食事になりました。他のテーブルでも楽しい笑い声が絶えず、「ドラえもん」の歌を歌ったり、穴の空いた硬貨に驚きながら、50円硬貨を宝物にしようと意気込む学生の姿も見られました。最後にジャスミンの花でできた首飾りとブローチをいただき、「See you again!」という言葉で終了の時間となりましたが、e-mailのアドレスを交換したり、写真撮影をしたりと名残惜しそうな様子でした。

カセサート大学にて(9日〜10日)

●カセサート大学について
  カセサート大学は、タイ国の首都バンコクにメインキャンパスがあり、その他にも国内に5つのキャンパスと20を超える研究施設を有しています。農学部、農業工学部、商業経営学部、経済学部、教育学部、工学部、水産学部、林学部、人文学部、教養科学部、科学部、獣医学部などの学部があり、学生総数は約22,000人です。カセサート大学には、小学校・中学校・高校の附属学校があり、全体の生徒数は約5,000人、教員数は約500人と非常に大きな学校です。

 9日は、6:30にブラパ大学を出発し、9:30頃にバンコクのカセサート大学に到着し、ホテルのような大学の宿泊施設にチェックインしたあと、附属高校のサワララート(Sawrarat Patarathitinant)さんとともに早速附属高校へ移動しました。
 構内は芝生や樹木など緑が多く、木で作られたベンチなども数多くありました。グラウンドには、強い日差しを避けるためにテントが並び、その下で小学生が体育の授業を行っていました。

  午前中は、プログラムの準備を行ったあと、Daranee Utairatanakit(ダラニー)校長等と昼食をし、附属学校の教育などについて懇談しました。この附属学校は、小・中・高の一貫教育で、貧富の差はあるものの、奨学金を利用するなど、全ての子どもが一緒に学べるようなシステムをつくっているとのことでした。入学試験は、日本の入学試験よりも厳しく、約20倍の倍率を勝ち抜いて入学してきます。そして、在学中は、知識の詰め込みではなく、音楽や運動、芸術など生徒の可能性を高められるよう、様々な分野に対して支援を行っています。
  実際、放課後はタイの民族舞踊の練習を行う生徒や大音量でドラムを叩く生徒、下級生に勉強を教えている生徒など、多くの生徒が遅くまで学校に残っていました。訪問した期間が保護者によるバザーを行っているときだったこともあり、多くの生徒が残っていたのかもしれません。学期の初めに行うこのバザーは、その収益を学校に寄附し、低所得の家の生徒のために利用されるそうです。バザー以外にもPTAによる募金が行われ、年4,000万円ほどが寄附されるとのことでした。

 午後からはまず、理科の先生たち約20人を前に、今回のプログラムについて主旨説明を行いました。
 その後、約80人の生徒が参加して、遠藤教授と林教授のセミナーや実験を行いました。全て英語で行うため、理解できるだろうかと思っていましたが、この附属学校では、小学生から英語の学習をしており、すでに9年間勉強しているため心配には及びませんでした。さらに、実験後の質疑応答のときには、日本語で質問してくるなど、この学校の教育の質の高さがうかがえました。
 また、実験途中には、地元のテレビ局「Channel7」が取材に訪れ、林教授がインタビューに答えていました。

 10日は、附属学校の施設を見学しました。土曜日だったのですが、多くの生徒や保護者が学校に来て、様々なスポーツに励んでいました。聞くと、スポーツは毎週行っているようで、ここでも熱心な教育体制がうかがえました。また、構内には「ヒゴタイ日本語センター」があり、九州と交流が深いこと、日本語の勉強に力を入れていることがわかりました。
 その後、今回の訪問の橋渡し役であるナチャポルン(Natchapol)さんのお父さんが、カセサート大学理学部微生物学科の教授であるということもあり、理学部の施設見学をさせていただきました。土曜日のため、大学生は少なかったのですが、日本の大学と同様に院生たちは研究を行っていました。理学部は、いろいろな薬品を扱う学部なので、建物の出入りには暗証番号の電子キーがあり、部屋を出るときも部屋を施錠するなどセキュリティーは厳重でした。学部内の設備は少し古いようでしたが、微生物から水素燃料を生成する研究などを行っており、愛媛大学との共同研究の可能性について協議していました。

おわりに

 今回初めて海外出張に行かせていただき、外国の大学を訪問しました。
 タイの教育に関して、小学校からの英語学習や充実した奨学金制度、日本語を話せる高校生と、驚かされることが多くありました。しかし、今回訪問した大学や高校は「エリート」と呼ばれるところであり、地方の学校や大学ではどのような教育がなされているのだろうかと考えさせられました。
 このような機会をいただき、この場をおかりして、御礼申し上げます。

 

「国際協力イニシアティブ」事業のタイ出張に同行して

理学部物質理学科4回生 井出有紀・竹本智恵

 平成19年度「国際協力イニシアティブ」教育協力拠点形成事業に、本学から申請した「生命科学を中心とした統合型理科教育に関する国際協力」が採択され、理科教育の現状調査と統合的理科教育法の実践のため、平成19年11月6日(火)〜11日(日)、無細胞生命科学工学研究センター遠藤弥重太センター長と林秀則教授とタイのブラパ大学とカセサート大学を訪問しました。

 私たちは林先生のアシスタントとして、この度タイへ連れて行っていただきました。初の海外ということもあり、気分も高揚していたし、不安もありました。

◆ ブラパ大学 ◆
 ブラパ大学では私達とそう歳も違わない生徒達を相手に、実験のアシスタントを行いました。自分達の英語力も低く、向こうの生徒さん達も英語力が高くなかったので、実験の内容を教えたり、質問の意味を理解したりすることが正直難しかったです。特にアクセントの違いに苦労して、同じ単語を色々な発音で言ってみるとなんとか通じました。会話することに関しては、難しかったのですが歳が近いこともあり、ジェスチャーなどを用いて上手くコミュニケーションがとれていたし、生徒達は先生に直接尋ねるよりも、私達に尋ねる方がやりやすいと感じているようでした。専門的な質問に関しては、その答えが日本語では分かっていても、英語で伝えることができず、先生の介助が必要になるなど、自分達の力のなさを改めて感じました。

  実験に関しては、直接目で見えるブロッコリーのDNAの抽出の方が生徒も楽しんでいたように思います。無細胞の実験が少し上手くいかなかったのが残念でした。2つの実験の操作はシンプルでわかりやすく、結果も目に見えて観察できるものなので、生徒の興味を引けていたし、どの生徒もとても楽しみながら実験を行っていました。2つとも彼らにとっては初めての実験だったので、これであっているのか?と手順ごとに確認を求めてきました。テキストを見るよりも人に聞いて理解する方が得意なのかなと思いました。

ブラパ大学で記念撮影

◆ カセサート大学 ◆

 カセサート大学では、高校生にブラパ大学と同じ内容の講義と実験を行ったのですが、教育のレベルが高く、生徒達は自分達よりも英語力が優れていたように思います。しかし、ブラパ大学と違い、大人数で、実験器具も2人で1つだったので、1人だけが実験に参加し、もう1人はただみているだけという班もみられました。後ろの方で講義を聴いていた生徒は途中で集中力もとぎれたのか、手遊びをしたり、友人としゃべったりといった光景も見られ、やはり高校生だなと感じました。いくつかの班は、写真付きの手順がわかりやすかったのか、テキストを見ながら次々と実験を進めていました。高校生なのに日本語で質問ができる語学力に驚きました。

◆ タイ出張同行を終えて ◆

  タイという全く未知の土地で自分達は様々なことを感じ、またたくさんのことを学ぶことができました。例えば、タイでは高校までは男女の比が同じなのですが、大学に入ると圧倒的に女子の比率が多くなっていたり、国民が王様をとても敬っていたりと現地に行かないと知り得なかった文化の違いを肌で感じることができました。タイに行く前と後で自分自身成長したと本当に感じています。いちばん成長したことは、タイに行ったことで全くしゃべれなかった英語が少ししゃべれるようになったことです(笑)。