本講義は、社会基盤施設の建設において必須である3次元データモデルの作成を学び、CIMツール(※)を用いて橋を設計し、コンペティション形式で課題を評価する、工学部の特色ある授業の1つです。エンジニアリングデザイン能力と呼ばれる、持続可能な社会基盤整備を担う技術者が有すべき重要な能力を身に着けることを目的としています。

※CIM(Construction Information Modeling):建設業界における情報モデリングの手法。建設プロジェクトにおいて、建物や施設の設計、施工、運用に関する情報をデジタル化し、一元管理することで、プロジェクト管理や意思決定を効率的に行うことができる。

授業内容

本講義は専門教育科目として、工学部工学科の3回生を対象に前学期に計15回開講されます。取材日は前学期の最後の授業で、橋梁モデリングの最終発表会が開催されました。

授業の前半は、1グループ5~6名で構成された計14のグループによるプレゼンテーションで、発表者1人、PC操作担当1人を中心に、自分たちが考案した橋梁の構造やデザイン、工夫した点について各2分で説明を行います。

発表スライドには、各グループでデザインした橋梁が、360度全方向からいろいろな距離感で映し出され、視覚的にも分かりやすく表現されており「こんなに立体的な図面が3年生で設計できるようになるのか」と、学生の技術に驚かされました。

特に印象的だったのは、橋の利用者が景観を楽しむことを目的として、橋の歩道とは別に、より低い位置にもう一つ歩道を作る、という斬新なアイデアの発表でした。川の中央に盛り上がった植生分布地点に歩道をかけることで、人と自然の触れ合いの場を設けることができるという説明がありました。このような柔軟で自由な発想こそ、社会の問題解決を導く力になっていくのではと感じました。

授業の後半のポスターセッションでは、各グループのスペースで活発に質疑応答が行われ、寄せられる質問に対して、説明担当者からは説得力のある回答がされていました。TA(授業を補助する大学院生)や教員も各グループをまわり、前半のプレゼンテーションもあわせてコンペティションの採点が行われます。評価のポイントは、前回の授業までに養った建設分野の知識をCIMツールによる橋梁設計へ応用できているか、CIMツールソフトの操作法を理解しているか、景観を考慮した橋梁デザインができているか、その土地に最適な橋梁モデルを提案することができているか、などです。

どのグループも、実際に現場に足を運んで橋梁の周辺環境を調査し、川の流れだけでなく気象や生態系など自然環境を考慮し、仲間と熟考し設計した橋に自信を持っているように感じられました。

最近は豪雨などの自然災害が多発していますが、自然にも人にも優しく、そして皆が安心して暮らせる社会の基盤づくりを担う技術者を目指して、頑張ってください!

教員からのコメント

土木分野の仕事は、建設関連の企業に加えて、地方自治体や地域住民など多くの方々の協力を無くしては進めることができません。そのため、円滑に仕事を進めるには、土木に関連する知識のみならず、他者に自分の意見を正確かつ適切に伝えるための能力が重要です。

「橋梁デザインコンペティション」の講義では、まず、土木構造物の3次元モデルの作成に関する基本的な知識や技術を学びます。

次に、学生数名から構成されるグループごとに橋を3次元で設計し、最後に橋梁の図面や設計のコンセプトをポスターとしてまとめて発表し、最も優れた橋梁のデザイン案を提案したグループを学生やTA、教員らによる投票で選びます。

多くの土木構造物はこれまで、2次元により設計されてきましたが、構造物を立体的に把握できる3次元による設計手法は、関係者に直感的に理解してもらいやすく、かつ設計の誤りがより生じにくいことから、生産性や品質の向上効果が期待されており、現場への導入実績も年々増加しています。また、構造物の設計者を選定する方法は複数存在しますが、本講義でも採用している設計協議(コンペティション)方式は、複数の設計者より提出される設計案の中から最も優れた案を選ぶ方式です。提案内容が優れていれば、過去の実績にかかわらず選定される可能性があり、公平性が保たれることから、土木構造物では比較的多く採用される方式です。橋梁を設計するにあたり、学生のみなさんにはデザインという言葉の意味についても深く考えてもらい、力学特性や周辺の景観との調和、コストなど様々な観点から最適だと思われる設計案を提案してもらっています。

これらの内容を講義で学ぶことで、今後の土木分野を牽引する人材となり得る素養を育んでもらえたらと考えています。

学生からのコメント

工学部工学科 3年生 新谷歩夢さん

橋梁デザインコンペティションでは、グループで橋を設計し、プレゼンを行います。設計の段階では、様々な橋の形式を調べてその土地にあった橋を選定して、設計を行います。プレゼンでは、パワーポイントを用いてポスターを作成して、その橋のコンセプトや構造的特徴を説明します。また、3Dモデリングソフトを用いて実際に橋がかかった場合のイメージ図なども作成します。最近の建設業界では、3Dモデリングソフトが一般的に使用されており、学生時代からそれらのソフトを使えるこの授業はとても貴重な経験となります。建設業界を目指したい方には、とてもいい環境で勉強できるはずです。