言語、人の生き方、そして社会:その密接な関係を読み解く
※掲載内容は執筆当時のものです。
研究の概要
「外国語を上手に使えるようになりたい」と思う方は多いでしょう。では、一体、どの程度まで使えるようになれば「上手だ」と判断できるようになるのでしょう。海外旅行で買い物に困らない程度でしょうか? それとも、海外の大学で講義を受けられるくらいまででしょうか?
私の研究では、必要な言語能力は状況依存的に捉えるという観点を取っています。例えば、同じ「英語ができる」という表現でも、旅行者が買い物をする場面と、留学生が専門的な講義を理解する場面では、求められる能力は大きく異なります。つまり、言語能力は一律の“絶対的な基準”で測ることはできず、それぞれの人が置かれている状況や目的に応じて考える必要があります。
研究の特色
私が専門としている応用言語学では、社会に生きる人々がどのように言語を習得し、どのように使っているのかを研究する学問です。私が特に力を入れているのは、国際結婚をした日本人女性が日本語を話さない配偶者と家庭を築く場合、その家庭の中で日本語がどのような役割や価値を持つのか、の考察です。また、短期留学に参加する日本人大学生を対象に、どのような英語力が求められ、実際にどのような力が伸びるのかについても分析しています。
これらの一見異なるテーマに共通しているのは、「人がどのような状況の中で、どのような言語能力を必要とするのか」という問いです。言語は単なる知識や技能を超え、人と人との関係の中で繊細な意味を持ち、社会の中で複雑に機能しています。そのため、文法や語彙といった記憶的な能力だけでなく、状況に応じて適切に言語を使い分ける力が重要になります。
また、研究のデータは、私が二十年暮らしているカナダを中心に収集しています。移民国家であるカナダは、世界で初めて多文化主義を公式な国家政策として採用した国です。世界中からカナダへ移り住む人々の多様性を社会発展の資源として活用するモデルを提唱し、単なる移民政策を超えた国家理念として「多文化共生」を掲げています。この国で研究を行うメリットは、人々が日常的に複数の言語を使い分け、生活を営んでいる実態を観察することができることです。こうした事例から得られる知見は、日本における多文化共生のあり方を考える上でも重要な示唆を与えてくれます。
研究の魅力
グローバル化の進展に伴い、今後、社会の中で異なる言語や文化を持つ人々が共に生きる機会はさらに増えていくと考えられます。そのような中で、「どのような言語能力が本当に必要とされるのか」という問いを見直すことは、教育や社会制度のあり方を考える上でとても重要です。言語というフィルターを使って多文化社会における共生のあり方を探ることで、より包摂的な社会の実現に寄与することを目指しています。
今後の展望
今後は、異なる社会・文化における事例を比較することで、実践的言語能力の普遍性と多様性を明らかにし、より汎用的な理論構築を目指しています。また、教育現場や地域社会との連携を進めるために、ワークショップや講演を通じて、研究結果を専門以外の皆さんに伝えることも積極的に行っています。
私が行う研究の最終的なゴールは、多文化共生社会における実践的な言語教育や支援のあり方に新たな視点を提供することです。例えば、留学準備教育や移民・国際結婚家庭への言語支援において、「何をどこまで学ぶべきか」という具体的指針の提示につながるはずです。また、言語を通じた共生のあり方を再考することで、多文化社会における包摂的な関係構築にも寄与することができればと考えています。




