研究の概要

脳波や心電図に代表されるように、私たちの身体では、さまざまな「電気信号」が生命活動を支えています。これまで電気信号の研究は主に神経細胞や筋細胞などの興奮性細胞を対象として発展してきました。このように生体電気信号はこれまで「情報伝達」にフォーカスして研究が進められてきましたが、その一方で細胞の移動や細胞増殖など、多様な細胞機能にも関わり得ることが知られています。

私たちの研究室では、細胞がどのように電気信号を感じ取り、それを生命現象へと変換しているのかを多方面から明らかにすることを目指しています。特に「電位依存性ホスファターゼ(VSP)」をはじめとする新しい電位感知分子に着目し、神経細胞だけでなく精子や免疫細胞など幅広い細胞を対象に研究を行っています。

精子から電気活動を計測する様子

研究の特色

本研究の最大の特色は、「生体電気」の概念を再定義しようとしている点にあります。従来は、電気信号の役割は神経や筋肉の興奮現象に限定的に捉えられることが少なくありませんでした。しかし私たちは、電気信号が酵素活性や細胞骨格制御などに深く関与していることを明らかにしてきました。

また、これまで十分に研究されてこなかった「非興奮性細胞」に着目している点も特徴の一つです。精子や免疫細胞のような細胞にも膜電位が存在しますが、その生理的意義には未解明な部分が多く残されています。私たちはこれらの細胞が持つ電気信号の役割を解明し、新たな生命現象の理解につなげようとしています。 さらに、基礎研究だけでなく、神経炎症や脳腫瘍などの疾患研究にも取り組んでいます。病気の仕組みを深く理解することで、新たな診断法や治療法の開発につなげることを目指しています。

研究の魅力

生命科学の魅力は、「まだ誰も知らない現象」を発見できることにあります。私たちが研究している電気信号の世界には、教科書に載っていない未知の仕組みが数多く残されています。実際に近年の研究では、従来の理論では説明できない新たな電位感知機構や細胞制御メカニズムが明らかになってきました。

神経細胞の活動記録と新たに同定したメカニズム

また、生理学は神経科学、分子生物学、細胞生物学、医学など多くの学問分野をつなぐ学際的な領域です。そのため、一つの疑問を解決する過程で幅広い知識や技術を身につけることができます。基礎研究の成果が将来的に医療へと発展する可能性を持つことも大きな魅力です。

今後の展望

今後は、電位依存性ホスファターゼをはじめとする新規電位感知分子の機能解明をさらに進めるとともに、神経細胞、精子、免疫細胞など多様な細胞を横断的に解析していきたいと考えています。

また、電気信号が細胞や組織の運命をどのように決定しているのかを理解することで、生命科学の新しい原理の発見につなげたいと考えています。最終的には、これらの知見を神経疾患や炎症性疾患、がんなどの治療戦略へと発展させることを目標としています。

電気生理学の実験設備

この研究を志望する方へ

研究の世界では、正解が最初から用意されていることはほとんどありません。大切なのは、物事を何か新しい目線で眺めようとする好奇心を持ち続けることです。

私自身、研究者としてこれまで多くの発見と出会いに恵まれてきました。そして研究人生を振り返る中で、どのようなテーマに取り組むかだけでなく、どのような仲間や指導者と出会うかが極めて重要であると感じています。

生命の本質に迫る研究に挑戦したい人、医学や生命科学を深く理解したい人を歓迎します。未知の生命現象をともに探究し、未来の教科書に新たな1ページを書き加える研究に挑戦してみませんか。