「花が咲くタイミング」を自在に操る!ゲノム編集の先を行く「エピゲノム編集」の最前線
※掲載内容は執筆当時のものです。
植物におけるDNAメチル化・ヒストン修飾編集技術の研究から、未来の農業を支える新技術を創り出す
研究の概要
花を咲かせる「スイッチ」を切り替えるエピゲノム編集の研究
春になるとナノハナやシロイヌナズナが、夏にはイネが花を咲かせます。植物はどのようにして「今が花を咲かせるタイミングだ!」と判断しているのでしょうか。私たちの研究室では、植物が花を咲かせる仕組みを研究しています。その中でも特に力を入れているのが、「エピゲノム編集」という最先端のバイオテクノロジーです。みなさんは「ゲノム編集」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。ゲノム編集は生物の設計図であるDNAの配列を書き換える技術です。一方、エピゲノム編集はDNAの配列を書き換えずに、DNAに付いている「スイッチ」を操作する技術です。
ヒトや植物のゲノムには約2〜3万個の遺伝子があります。遺伝子が揃っているだけでは、生物は正常に働きません。遺伝子が「いつ」「どこで」「どのくらい」働くかを調節する仕組みが必要です。その役割を担うのが遺伝子の「スイッチ」です。私たちは、「DNAメチル化」や「ヒストン修飾」と呼ばれるスイッチの仕組みを自在に操作し、植物の性質をコントロールする新しい技術の開発に挑戦しています。
研究の特色
「花を咲かせる遺伝子」の謎に迫る
私たちは、植物の花成時期を決める重要な遺伝子であるFT遺伝子を中心に研究しています。私は、1999年に発表されたFT遺伝子の単離・同定に携わりました※2。その後の様々な研究により、FT遺伝子から作られるタンパク質が、長年その正体が謎であった「フロリゲン(花成ホルモン)」であることが明らかになりました。FT遺伝子は、いわば植物に「花を咲かせなさい!」と命令する司令塔です。しかし、FT遺伝子が「いつ」働くのかを決めている仕組みには、まだ多くの謎が残されています。
私たちが注目しているのは、「シスエレメント」と呼ばれるDNA上の特定の配列です。これは、車のアクセルやブレーキのような役割を果たし、遺伝子の働きを調節しています。私たちは、このシスエレメントの働きをDNAのハサミであるCRISPR/Cas9システムを使って調べています。さらに、エピゲノム編集技術によりDNAのメチル化やヒストンの修飾を変化させて、遺伝子の働きを自在に制御する研究も進めています。このように、私たちは植物が生きていくための基本的な仕組みを解き明かすだけでなく、その仕組みを操作する新しい技術そのものも研究しています。
研究の魅力
誰よりも早く「未知」の謎を知ることができる!
研究の最大の魅力は、まだ誰も知らない「生命の制御の仕組み」を世界で最初に見つけられるかもしれないという「ワクワク」感です。例えば、DNAの配列を変えずに、遺伝子のスイッチだけを自由に操作できるようになれば、植物の花成時期や生長を思い通りに調節できる可能性があります。実現できれば、温暖化による猛暑を避けて収穫時期を調整したり、病気や干ばつに強い植物を開発できることができます。
私たちが開発しているエピゲノム編集技術は、DNAを書き換えずに遺伝子の働きを調節できるため、未来の品種改良に新しい可能性をもたらすと期待されています。研究室では、シロイヌナズナ・イネ・トマト・柑橘・サトイモなどさまざまな植物を対象に研究を進めています。最先端の解析装置から得られるデータに日々胸を躍らせています。未来の教科書に載るような発見が、今この瞬間に研究室の実験ノートから生まれるかもしれません。
今後の展望
愛媛から世界へ
現在は、シロイヌナズナやイネを用いた基礎研究が中心ですが、今後はエピゲノム編集技術の効率や使いやすさをさらに向上させ、様々な作物への応用を目指してします。「愛媛の特産品である柑橘類(紅まどんな、紅プリンセスなど)の品種改良にも活用したいと考えています。高温に強い品種や病気に強い品種、栽培の手間を減らせる品種の開発につなげることで、農業が抱える課題の解決に貢献したいと考えています。愛媛から世界へ発信できる新しいバイオテクノロジーの確立を目指して研究を続けています。
この研究を志望する方へ
研究はRPG
RPG(ロールプレイングゲーム)が好きな人、RPGに関心のある人は、研究に向いていると思います。研究はまさに「未知の世界を冒険するゲーム」なのです。装備を揃え(実験装置を揃え)、魔法を覚え(最新の研究技術を修得し)、様々な属性やスキルを持つ仲間を集め(様々な専門の研究者と共に)、世界中から情報を集め(国内外の学会で交流し)、コインも集め(研究費の獲得)、誰も倒したことのないラスボスに挑みます。これはまさしく、誰も知らない科学の謎への挑戦です。研究には攻略本はありません。自らの知恵と工夫で道(未知)を切り拓いていく冒険です。私達と一緒に、未来の農業技術を開拓してみませんか。
引用文献
※1)エピゲノム編集によりシロイヌナズナの花成のタイミングを制御について
著者(Authors): S Hirata, T Ozono, K Kawai, C Machida, K Kobayashi, Y Ikeda, T Nishimura, H Kaya
論文タイトル(Title):Development of a simple and locus-restricted DNA methylation editing system using direct fusion of a nickase-type SpCas9 and DNA methylation-related enzymes in Arabidopsis thaliana
掲載誌(Journal): Plant and Cell Physiology
発表年:2026
リンク:https://doi.org/10.1093/pcp/pcaf162
※2)FT遺伝子の単離・同定について
著者(Authors):Y Kobayashi, H Kaya, K Goto, M Iwabuchi, T Araki
論文タイトル(Title):A pair of related genes with antagonistic roles in mediating flowering signals
掲載誌(Journal):Science
発表年:1999
リンク:https://doi.org/10.1126/science.286.5446.1960
関連サイト
〇愛媛大学 農学部 食料生産学科 農業生産学コースのホームページ
〇分子生物資源学研究室のホームページ





