この授業は、法文学部人文社会学科の専門教育科目の1つです。受講対象は、主に、授業を担当する法文学部の菅原健志先生の研究室に所属する3年生以上の学生です。
授業では、それまで学んできた国際政治についての理解をさらに発展させるだけでなく、自らの興味・関心に合わせた知識を獲得することを目的としています。さらには、自分なりの問いを設定し、学術論文の書き方に則ってレポートを書くことで、卒業論文の執筆に備えることを目指します。

授業内容

この授業では、受講生たち自身が選定した国際政治に関する文献について輪読及び議論等を行う演習形式で進められます。

今学期、受講生たちが選定した文献は、佐橋亮『米中対立 ―アメリカの戦略転換と分断される世界―』(中央公論新社、2021年)で、「第6章 米中対立をみつめる世界」について扱う回を取材しました。
あらかじめ決められた各章の担当学生が、該当の章の要点及び自分の関心に沿って調査した結果や解釈について、スライド等を使いながら発表しました。また、米中間の対立が深まる中、日本はどう対応すべきか等について議論の投げかけがあり、受講者及び菅原先生による自由で活発な議論がなされました。

担当学生による発表

 その後、菅原先生から、この章に関する解説及び時事的な国際政治等に関するニュースなどの話題提供がありました。例えば「一つの中国」原則を主張し、台湾を国家として認めないとする中国が、台湾の事実上の大使館となる代表機関に「台湾」という名称を使うことを認めたリトアニアに対して、中国からリトアニアに派遣している外交官を、「大使」から「代理公使」に格下げして抗議した事例の紹介がありました。また東京オリンピック2020など国際大会での台湾の呼称は、台北という都市名に基づいた「Chinese Taipei」であったことなどの紹介もありました。

一見関係しないと思える事象が、実は政治的・歴史的に深く関連しているといった解説があり、受講生の考察や更なる議論が展開され、菅原先生からの発表・議論に関する講評で締めくくられました。

最後に菅原先生から、経済だけでなく安全保障においても、米中どちらとも関わりが深い日本を含むアジア諸国が、米中対立の中で、今後、どう対応していくかが今後の課題であると説明がありました。また本学にアフリカ諸国からの留学生が多いことから、アフリカ諸国への投資および援助により中国の影響力が高まっていることや、それに対して賛否両論あることなどが紹介されました。

 

その他、冷戦終結後の米ロ関係と今後の中国との協力関係の可能性や令和3年9月に発足したAUKUS(オーストラリア(AU)、イギリス(UK)、アメリカ合衆国(US)の三国間の軍事協定)といった新しい国際的枠組みと、その立ち上げの背景に至るまで、幅広く解説がありました。

菅原先生による、国際政治に関する背景を踏まえた深い考察を促す解説と、受講生の発言からは、日頃から時事問題に注目していることがうかがえました。また、日本の一地方都市に暮らしていても、国際政治情勢が関係しており、受講生らは今後、社会人として必要になる視点や、背景・歴史も踏まえて総合的に考える術を調査・議論の実践によりしっかりと身に付けていることが感じられ、今後の活躍が楽しみです。

教員からのコメント

一般的に「ゼミ」と呼ばれる演習形式の授業では、何らかのテーマについて教員と学生が議論することが重視されます。法文学部グローバル・スタディーズ履修コースのゼミは人数の上限が5人なので、一人一人の学生が受け身にならず積極的にゼミに取り組むことが大切になります。しかし興味や関心の持てないテーマについて議論するのはとても難しいですし、何より楽しくありません。そこでこの授業では、まず学生がどのようなテーマを学びたいか話し合い、学生が希望するテーマに即した文献を私からいくつか提案し、その中で読みたい文献を学生が選んで輪読するという形式を取っています。そうすることで学生が主体的に取り組み、率先して議論できるようなゼミにしたいと考えています。

今年度は安全保障について全体像を大まかに学んだうえで、個別の事例として米中関係について議論することになりました。現在の国際政治の状況に大きく影響を受けたテーマ設定となりましたが、安全保障の理論的側面や米中関係の歴史的側面を踏まえて今しばしば話題となる時事問題を考えられるよう、文献を選んで読み進めていきました。最初は意見を言うことを躊躇っていた学生たちも、だんだん知識が身につくとともにゼミの形式にも慣れてきて、積極的に発言するようになっています。そのような学生の発言から議論が思いもよらぬ方向に向かうこともありますが、予想外の展開こそ教員と学生の双方向的な議論が生み出す面白さであると思います。

どのようなゼミが良いかは人それぞれの考えがあると思いますが、私は教員が話題や情報を提供して刺激を与えつつ、学生主導で議論が進んでいくゼミを目指しています。まだまだ試行錯誤が続きますが、教員と学生がお互いに学ぶことで、より良いゼミを創っていきたいと考えています。

受講学生のコメント

法文学部人文社会学科 3年生 武田 咲子さん

私達のゼミでは、参考書の内容に対し自分がどのような意見を持つのか、といった議論をしています。そこに正解や不正解は無く、他の人の意見を聞く事で自分の考え方を広げる事ができます。また、先生のお話は毎回とても興味深いものであり、このゼミの大きな魅力のひとつです。国際関係、国際問題について自分の意見を持つ事は時に難しくも感じますが、ものに対する考え方や見方が鍛えられ、自己の成長に繋がっていると思います。

法文学部人文社会学科 3年生 吉岡 夏海さん

 このゼミでは、ゼミ生が興味をもつ国際関係のテーマに関する本を輪読し、その内容について議論しています。今は米中関係について学んでいるのですが、その対立が長い歴史の中で複雑に絡み合うだけでなく、グローカル化が進む世界では私たちの将来にも影響するため他の国同士のみの話ではないと感じることが多いです。難しいテーマでも先生の丁寧な説明やゼミの仲間との話し合いを通して理解が深まるおかげで、それまでの国際関係の見方が変わることを実感しています。

※写真撮影時のみマスクを外しています。