受験生
在校生・保護者
卒業生
企業・研究者
地域・一般
教職員
基金室
アーカイブ

授業紹介 I Report

Print Facebook Twitter
2021.02.15
日本歴史概論Ⅲ
法文学部
担当教員:中川 未来 / 対象:法文学部人文社会学科1回生~

※掲載内容は取材当時のものです。

 近年、「地域振興」、「地域創生」という言葉を耳にする機会も多いと思いますが、実はこれらは近年生まれた言葉ではありません。
 この授業では、過去に日本社会に存在した多様な地域振興構想を、近代化・産業化の地域格差などの近現代の諸問題との関連で学ぶことで、現代日本社会の「地域振興」について考察するための思考力を身に付けることを目的としています。

授業内容

 109人が受講する講義で、受講生の約半数が1年生です。令和2年度後学期は新型コロナウイルス感染防御対策として、全15回の講義がe-Learningシステムを活用した非同期(蓄積)型で開講されました。中川先生が自身で撮影・編集した授業動画や資料を閲覧・視聴して学習し、質疑応答はメール等でやりとりをします。

 令和2年度後学期の授業題目は、「『地域おこし』の近現代史」。明治期~高度成長期に至る近現代日本史について、教科書風に概説するのではなく、現代社会と関わる視点から、受講者自身が思考を巡らせて読み解きます。

 近現代の日本社会では、近代化に伴う地域格差の発生と、汽船やバス・自動車といった交通手段の発達、そして学校や軍隊等の公共機関整備に対する需要、また大衆消費社会の誕生といった様々な要素が交差する中で、多様な地域振興策が構想されていたそうです。

 今回受講したのは、「軍隊を誘致する」をテーマとした講義でした。受講前は、「地域おこし」と「軍隊の誘致」とのつながりが判然としませんでしたが、中川先生の講義を聞いて、その2つが密接に関係していて、それは現在の都市形成や産業構造、そして私たちの暮らしにもつながっていることが分かりました。

 明治6年、国民の兵役について定めた「徴兵令」が公布され、明治政府軍の編成が始まりました。その後、「大日本帝国憲法」に兵役義務について明記されたことにより、国民皆兵の原則が定着し、さらに軍隊の規模は大きくなりました。
 当時の軍隊(陸海軍)は、戦争をしていない平時も常備部隊として集結し、全国各地に駐屯していました。日清戦争が終わり、日露戦争へ向けて日本の軍拡が更に進む明治31年(1898年)、大日本帝国陸軍第11師団は、香川県善通寺町に駐屯しました。

 当時の善通寺町は、商品作物の集約的農業を行っていましたが、外国産品の流入により衰退していました。その状況を打開するために、地域振興策として軍隊を積極的に誘致し、陸軍第11師団の誘致に成功したのです。
 当時の町の人口は約1万2千人。対して、第11師団は約7千人。師団の駐屯により、町の人口は一気に約1.5倍に増えました。当然、地域での消費・経済活動は活発になりました。

 特に影響を受けたのは、商業と交通。一例として、商業では、師団が消費する米穀物の増加により、穀物の卸売や仲買商が発達しました。また、交通においては、讃岐鉄道(私鉄)の開業が挙げられます。その他にも、国道の竣工や、市街地内の道路整備、新航路の就航やインフラ整備等、劇的に発展しました。
 一方で、陸軍による軍用地の買収(=国有地化)により、善通寺町の地方税が減収になるなどのデメリットもありました。

 授業では毎回、現代日本社会の「地域振興」について考察するための思考力を育てるためのレポート課題が出されます。今回の課題は、「消費単位としての軍隊が地域に駐屯することで、地域社会にはどのような消費需要が発⽣するか、具体的に事例を列挙してメリット・デメリットの双⽅からその意味を考えよう」というものでした。
 提出後には、受講生全員のレポート課題と、先生の丁寧な解説がオンライン上で共有され、それらを閲覧してじっくりと理解を深めることができます。

 非同期型授業には、同期(リアルタイム)型授業にはないメリットがあります。それは、授業動画を見て理解できなかった時や、「おもしろかった!もう1度見たい!」という時には、繰り返し視聴して理解を深めることができるということです。また、動画が字幕入りのため、聞き慣れない専門用語も、文字・漢字で確認することができます。

 今回は、隣県の香川県の実例が題材ということで、とても身近に感じ、興味を持って学ぶことができる内容でした。また、善通寺市には旧陸軍第11師団の建物等が現存しており、現地を見学することでさらに学びを深めることもできます。私たちの今の暮らしは、過去の積み重ねからできています。歴史を学ぶことは、今を、そして未来を学ぶことに繋がるのだと気付かされた講義でした。

教員からのコメント

 理科系の諸科学とは異なり、人文社会諸科学には多くの場合、決まった教科書や段階を踏んだ学習の手引きがありません。そのため「概論」系の授業には担当教員の学問や教育に対する姿勢が色濃く現れます。私が学生時代に受講した日本史の「概論」は学説史・史学史の講義で、今思い返せば学部生にとってはとても高度な(そして難解な)内容でした。

 私の「日本歴史概論Ⅲ」では、必ずしも日本史を専門としたい受講生のみでないことも考慮して、現代社会の成り立ちや私たちが抱える様々な社会的諸問題に直結するであろう「働きかた」「人口問題」「対外認識」「地域振興」といったテーマを設定し、日本列島で展開した近現代の歴史に即して紹介することにしています。2020年度後学期にはこのうち「地域振興」を取り上げました。

 実施にあたっては動画配信を中心とする遠隔授業を余儀なくされましたが、受講生の積極的な参加にも支えられ、最新の研究成果を盛り込みながら私たちの暮らす地域社会の成立条件を時系列に沿って検討するという授業目的は達成されたのではないかと考えます。

 多様な背景を持つ人びとにとって暮らしやすい社会をつくるためには、歴史の多様なあり方を自覚的に、そして批判的に学び、理解しようとする意識が不可欠です。「批判的に」とは攻撃的にということではありません。自らの眼差しを大切に学びを深め、眼差しそれ自体を更新していって欲しいと思います。

学生からのコメント

 日本歴史概論と聞いて何をイメージしますか?高校までの日本史は、教科書を中心に年代や歴史上の人物を覚えたり、受験に向けて対策をしたり、解答の範囲は限られています。では、大学での学びは何が違うのでしょうか?まず、大学では幅広い学問・分野の中から、自分が専攻したい学問を中心に履修することができます。

 私が日本歴史概論を選択した理由は、今までとは違う角度から日本の歴史を探求して解答を出す面白さに一筋の道を発見したからです。中川先生の講義は遠隔授業の現在でも動画で視聴でき、対面授業と同様に臨場感があります。また課題に対する内容や質問及びコメントカード等も学生の学ぶ気持ちに寄り添い、より意欲的に取り組めるよう導いてくれます。

 もし、地歴公民が苦手な方でも、日本歴史概論を学ぶことで、自分の中の新たな探求心や可能性を発見できるなら・・・一筋の道の先には、これからの日本を変える未来の
「あなた自身」が見えるかもしれません。