サムネイルこの授業は、原文の細読を通して作品の特性や作品をうみだした作家の特徴などについて思索をめぐらせながら、作品の性格に応じた問題設定とその解法を主体的に模索することで、古典読解の方途を身につけることを目的としています。

 

 

授業内容

この授業では、変体仮名というくずし字で記された版本を複製印刷(影印)した源氏物語を教科書として使用しています。学生たちが分担で、その内容を現代通用のかなや漢字表記に直し(翻字)、口語訳等を発表していくという形態で授業は進められました。

写真1 今回のテーマは、光源氏と三位中将(頭中将)の関係でした。学生が注解内容を説明していくと、教員から、助詞「欤(か)」は疑問、助動詞「也(なり)」は断言、「べし」は推量を表すとの補足があり、「この場面では光源氏のどういった心情を表しているか」等の質問が投げかけられました。
学生は、助詞・助動詞の意味を頼りに、現代では使われていない言葉に苦戦しながら、夕顔の死に遭って体調を崩した源氏を頭中将が訪れる様子や、源氏が頭中将にからかわれる紅葉賀巻の場面、両者が末摘花を取り合うといった場面をたどり直していきました。

写真2そこで、教員が、場面場面で二人の仲を強調している箇所を探すように促すと、二人が心を許した友であり、同じ女君をめぐって張り合うライバルでもあるという非常に親密な仲であることを、徐々に読み解いていきました。
教員から、「これまでの叙述を積極的に想起し、場面状況や語り手の姿勢を読み取ることが大切」とのアドバイスがありました。最後に、次回の展開につながる重要な場面を確認し、授業は終了しました。
学生たちは、この授業で発表を重ねていくうちに発表力を身につけ、古典文学に親しみながら作品を読み解いていく楽しさや奥深さを味わっていくことでしょう。

教員からのコメント

西先生演習では源氏物語を継続して採りあげ、今期は葵の巻を読み進めています。六条御息所のもののけが登場する有名な巻ですが、斎院の御禊の日、葵上方との間で見物の車を立てる場所争いがあったことをきっかけに、御息所が「限りなき身の憂さ」を思い知るに至る過程は、物語のあらすじや現代語訳などでは味わえない迫真に満ちています。原典に接することで先入見が排され、印象を新たにする経験を覚えることもしばしばです。

ともすれば速読による即解が促されがちな現代ですが、古典の「よみ」は、たった一度だけで完結するわけではありません。繰返し、注意深く行うことで、より興味深い理解へと導いてくれる、持続的積極的主体的な作業です。そうして、ことばに対して注意深さと興味深さを志向するこのわざは、古典に限らず、文学を含めた芸術作品ひいては他者を理解しようとする私たちの態度にも通じています。
教室では、くずし字で記された古語の正確な解釈に基づきながら、先人の注釈にも目配りしつつ、数ページあるいは数行しか進まないような歩みですが、手間(てま)と時間(ひま)をかける細読の実践とその熟達を通して、作り手が紡ぎ出した言葉の形づくる世界の深さと広さを、学生のみなさんとともに体験したいと念願しています。

学生からのコメント

学生さんこの演習の授業で、高校までの古文がほんの上辺にすぎないことに気付きました。まず、テキストは、変体仮名というミミズ書のような字で書かれており、それを読み解いていきます。そして、一字一句を丁寧に読むことで、辞書的な意味にとどまらない解釈ができ、作品をより深く味わうことができます。「本当に千年も前に書かれた作品なのか」と驚かされることがあります。高校の教科書では、知ることのできなかった新たな古文の魅力に触れられ、とても興味深い授業です。