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重要なお知らせ

未来の愛大生へ

2023.07.20
学術的に考える楽しさや苦しさを味わおう

渡邉 敬逸 准教授

●社会共創学部環境デザイン学科
●地理学

私の専門は地理学です。地理学は一見すると節操のない学問です。まず、対象が多様です。深夜の若者の徘徊行動を研究する人、南極の雪氷と気候変動の関係を研究する人、SNS上のネットワークを研究する人、サルの行動と環境条件の関係を研究する人など、色々な人がいます。また、手法も多様です。延々と古文書や地域統計を分析する人、市街地や農地を歩き回り景観調査する人、住民にインタビューをする人、観察や観測で環境データを蓄積する人、統計解析をガリガリにやる人、社会運動に関わる人など、これまた色々な人がいます。

なぜこうなるのかというと、それは地理学の特性にあります。地理学は地域、空間、場所、景観、環境、スケール、距離等の概念やこれに関わる理論を駆使して、現実の自然や社会を読み解く学問です。地理学の対象は「自然や社会」なのですが、要するにこれは地理学に「特段の対象はない」ことと同義ですので、対象に統一感が無く、上記したような状況となります。そして、自然や社会を読み解く学問は地理学だけではありませんので、必然的に地理学は隣接諸科学との接点も多く、その知見、概念、理論、手法を貪欲に取り込みながらどんどん膨張しています。よって、方法にも統一感がありません。

要は、対象や手法が何であれ、地域、空間、場所、景観、環境、スケール、距離等の概念やこれに関わる理論で現実を解釈することができれば、それは地理学になります。私のこれまで関わってきた研究を並べると、よさこい祭り、新潟県の闘牛、地域の人的支援、地域運営組織、災害復興支援、廃村、ツル類の環境選択性、里山の環境モニタリング、山地におけるシカ食害、人口減少下における文化資源保全等に関わっており、自分で書いてみても「本当に節操がないな」と思わずにいられません。これは私の研究が「その対象が地理学になりそう」という学術的関心から始まるのではなく、「その対象やこれに関わっている人が面白そう」という好奇心から始まることが原因な気がします。

いずれにしても、地理学者には多様な対象を地理学の土俵に引きずりこむ手腕が求められるのですが、いま私は地域住民と協働で実施した「まわしの着用経験」に関するアンケート調査をいじりながら、この文章を書いています。さすがに「まわしの着用経験」がどう地理学的に料理できるのかはいまだ皆目見当つかないのですが、そのあたりのロジックを考える楽しさや苦しさは、何も地理学に限りません。学問分野はなんでもいいのですが、ぜひ愛媛大学にいらっしゃって「自分の興味のあることを学術的に考える楽しさや苦しさ」の一端を味わっていただければと思います。

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