機能性食品を上手に活用すれば、私たちの生活の質を高められる

研究の概要

日本は世界に冠たる最長寿国の一つですが、平均寿命と健康寿命の差は依然として大きい状態が続いています。健康寿命の延伸には、認知症や脳血管疾患など、脳に重篤な影響を与える疾患の発症・重症化の予防や、フレイル(心身の衰え)対策が重要です。また、高齢者でなくても、生活習慣病やアレルギーなどの非感染性疾患は長期に渡って生活の質を低下させるため、健やかな生活を送るには、これらの疾患の発症・重症化の予防も重要になってきます。

前述した疾患の発症や重症化には、日々の食事(食習慣)が大きく影響します。食事で摂取する食品には栄養素(一次機能)としてのはたらきだけでなく、匂いや味など、感覚器官を刺激するはたらき(二次機能)や、体の生理機能を調節するはたらき(三次機能)があります。食品の三次機能は一次機能と異なり、私たちの生存や健康維持に必須のはたらきではありませんが、上手に活用することで体調の維持改善や健康の維持増進により、疾病の発症予防や生活の質の維持向上を期待できます。健康の維持増進に関わる食品の三次機能を特に食品の機能性とよび、私たちの研究室では機能性を発揮する食品成分の探索と、食品成分が機能性を発揮するメカニズムの解明に関する研究を行っています。特に、アレルギーや慢性炎症、骨粗しょう症の発症・重症化に予防的な機能性食品成分の研究に力を注いでいます。最近の成果として、魚油が抗アレルギー効果を発揮するメカニズムの一端の解明や、骨粗しょう症の発症に予防的なフラボノイドの発見などがあります。

研究の特色

地球上には様々な食品成分が存在しますが、どの食品成分が機能性を発揮するのかを、人を使って直接調べるのは困難です。そこで私たちはヒトなどの細胞を培養し、食品成分による刺激を細胞に与えて、遺伝子発現などの細胞応答がどのように変化するのかを解析して、新たな機能性食品成分の発見やメカニズムの解明につなげています。培養細胞を使って新たな機能性食品成分が見つかったら、マウスなどの実験動物にその食品成分を摂取させて、培養細胞レベルだけでなく生体レベルでも機能性が発揮されるかを評価します。実験動物でも有望な効果が得られたら、医学部と協力して介入試験を実施し、人でも機能性が発揮されるかを最終的に検証します。
このような研究の実施には、様々な分野の研究者の協力が不可欠です。例えば、分析化学者が食品中の様々な成分を分析し、生物学者が培養細胞で評価します。機能性を発揮する新しい食品成分が見つかったら、有機化学者がそれを大量に合成し、実験動物に投与して有効性を評価します。人での検証には医学者の協力が必須です。このように、異なる分野の専門家が協力することで、自分一人では思いつかないようなアイデアが出てきたり、最新の科学技術に触れられたりするので、この研究分野はとてもエキサイティングだと思います。また、農学と医学の融合の場でもあります。この医農連携は、愛媛大学の新しい特長となっています。

研究の魅力

月並みですが、まだ誰も知らない、未知の食品機能性を世界で最初に発見できるのが研究の醍醐味です。もちろん簡単ではありませんが、十分な努力と工夫と知恵があれば、なにかしらの発見につながります。さらに、食品の機能性に関する研究は、保健機能食品などの開発に直結できるところも魅力です。私は農学研究科附属食品健康科学研究センターを兼任していますが、本センターと食品企業との共同研究の成果から商品化へたどり着いた実例が多くあり、その一部は機能性表示食品として販売されています。私も食品の機能性の研究を通じて、社会に還元できる研究成果を残したいと思っています。

今後の展望

食品成分には様々な機能性が秘められており、私たちが知っているのはその一部に過ぎません。すなわち、食品には研究の余地がまだ多く残されています。一方で、未知なる食品の機能性を見つけ出す眼力も必要です。養われた眼力と強いモチベーションがあれば、食品の機能性研究の新境地を開拓してパイオニアになれる可能性が十分にあります。

この研究を志望する方へのメッセージ

新たな機能性食品成分の発見や機能性のメカニズムの解明にたどり着くには、様々な実験を行い、実験結果から新たな仮説を組み立てるサイクルを日々重ねる必要があるため、根気強さや基礎的知識、思考力が求められます。一方で、食品の機能性の研究は他の研究分野と比べて応用展開しやすいため、研究に対するやりがいや達成感を強く感じられるのではないでしょうか。ここで紹介した研究の推進には、食品の機能性を面白いと感じられる学部生・大学院生の力が不可欠です。食品の機能性に関する研究に興味をもっていただけたら、その最先端の研究を私たちと一緒にあなたの手で進めてみませんか?