この授業は、ピアノの演奏法や表現力を応用発展させ、学校現場や音楽実践の場において柔軟に対応できるピアノ伴奏能力を養うとともに、誰かと演奏を共にする喜びを感じることによって、コミュニケーション能力を高めることを目的とした、実践的な授業です。

授業内容

 この授業は、教育学部開講の、3年生以上を対象とした全15回の講義です。令和3年度前学期の受講者は、教育学部学校教育教員養成課程中等教育コース音楽教育専攻3・4年生の計4人です。少人数のため、各自の目標や到達度に合わせたきめ細かい指導を受けることができます。

 前学期の前半の授業は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、遠隔授業(同期型)と、1~2人に人数制限した対面授業の併用で行われ、また、例年は実施している器楽曲の伴奏や歌唱を含む活動は制限して実施されました。しかし、後半の授業は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止と学生の学修機会の確保とを両立する観点から、徹底した感染防御対策を取りながら、全員揃っての対面授業やアンサンブル(2台ピアノ)を実施しました。

 取材を行った第14回目の授業は、以下のような流れで進められました。

1.新曲視奏(初見視奏)

 提示された12小節ほどのピアノ新曲課題を1分程度見た後に演奏し、教員と楽曲の流れ、和声や構成について確認した上で、再度、演奏することを繰り返します。
 ピアノの初見演奏能力は、身に付けておくべき必要な音楽技能であり、また、多様な場で活用できる応用力も育まれます。

 

2.キーボード・ハーモニー(和音付け)

 提示された楽譜を見ながら、教員から和音付けについて解説を受けた後、即興で和音付けしながら演奏します。
 バス・和音の定型(カデンツ)を覚えることで、旋律への基本的な伴奏付けや移調奏、また楽曲構成や創作の基本も学ぶことができ、学校現場における音楽の授業で必要となる力を身に付けることができます。

 

3.中学校の歌唱共通教材7曲のピアノ伴奏の演習

 中学校で取り扱う歌唱教材の伴奏を演奏、歌唱します。今回は、滝廉太郎作曲の「花」が課題でした。
 この演習を通して、教材研究やピアノ伴奏法の表現のあり方と、歌唱授業における実践的な力を身に付けることができます。

 

4.アンサンブル:2台ピアノによる演習

 2人1組で課題曲を選曲し、様々な形態がある「合奏」のうち、2台ピアノでのアンサンブルを行います。
 合奏相手との課題共有とその解決について、教員から助言を受けながら、2人での練習・合わせの観点や方法を実際に体験しながら学びつつ、表現力の向上を目指す演習です。

 

 授業担当の福富彩子先生による、各受講生の目標や能力に合わせたきめ細やかな指導、また、その指導を真摯に受け止めて応えようとする受講生の意識と能力の高さに驚かされました。特に、歌唱教材の伴奏と、2台ピアノのアンサンブルは、自身の演奏能力の向上に限らず、相手とのコミュニケーションも必要であり、高度な能力を身に付けようと真剣に取り組む受講生の姿に感動を覚えました。本授業を受講することで、授業の目的にあるとおり、ピアノ伴奏能力を養うことのみならず、誰かと演奏を共にする喜びを感じることにより、コミュニケーション能力を高めることができると感じられました。

教員からのコメント

福富先生と受講生の皆さん

 この授業は、学校現場や音楽教育の場で活用できるピアノ伴奏力とピアノを用いた指導力の育成を目的として開講されています。音楽教育の現場ではピアノを使った音楽指導が行われることが多いのですが、旋律に即興で和音やリズムを付けて演奏し、生徒に伝えなくてはならない場面も度々あります。そのようなことにも対応できるピアノ演奏力の向上と共に、ピアノを使って生徒とコミュニケーションする能力を高めるための実践的演習として、歌唱伴奏法、新曲視奏、キーボード・ハーモニー、2台ピアノや連弾、ひいてはピアノを含む器楽とのアンサンブルなど幅広い内容を含んでいます。

 まず、中学校歌唱共通教材から歌唱伴奏法を学び、楽曲への理解を深めます。また、キーボード・ハーモニーでは和音進行をピアノで操れるようにします。この能力は、旋律への伴奏付けや移調奏にも役立ち、創作にも繋がるものです。

 次の段階のピアノ新曲視奏では、演奏前に楽譜を見て頭の中に音楽をイメージします。これを「予見」といいます。予見時のイメージと、実際に演奏した音楽との差を縮められるよう演習を重ね、旋律や和声、調、フレーズなどの音楽的要素が統合されて認識できるようにします。

 アンサンブルでは、合奏相手と呼吸を共有し、自身と他者との音の重なりを聴こうとする力も育成します。様々な形態の合奏の中で、今学期は2台ピアノに取り組みました。授業では、2人での練習で聴き合うポイントや、練習の方法等の観点を投げかけます。他者と協同して表現を模索する過程で新しい発見や気づきがあると、学びの動機付けにもなりますし、表現を共有できる喜びも音楽の魅力だと思います。

 こうした能動的演習で培われる力は、学校現場での実践で生かされるものと期待しています。

学生からのコメント

教育学部 学校教育教員養成課程 4年生 掛水 来夏さん

掛水さんと森さんの楽しそうなアンサンブル

 伴奏法の1番の魅力は、学校教育に絶対に必要なスキルを磨くことができるというところだと思います。伴奏の演奏の仕方一つで、こんなにも音楽が変化するのかということを日々実感し、合わせて演奏する楽しさも、先生方や仲間のおかげで味わうことができています。子どもたちや奏者、楽曲を生かす力を広く育ててくれるため、この授業は教員志望の私にとって強い味方です。

 

教育学部 学校教育教員養成課程 3年生 森 蘭々菜さん

 ピアノ伴奏法では、伴奏付けや初見視奏、ピアノデュオ等の演習を通して曲想や多様な場面に応じた演奏法を学ぶことができます。毎回の授業での先生の丁寧なご指導により、様々な曲への応用力を身に付けることができるとともに、他者と演奏する喜びや伴奏付けの楽しさを感じることができる授業です。15回のレッスンを通して、自分自身の考えを深め、より一層ピアノの魅力に惹きこまれる、大変魅力的な授業だと私は感じました。

※写真撮影時のみマスクを外しています。