この授業は、作物、果樹、蔬菜・花卉の栽培法、家畜の肥育、農業機械の使用法など、農業生産の管理、調査手法に関わる基礎的な知識と技能を身につけることを目的としています。またフィールドを用いた班別研究を行うことにより、研究の立場から農業現場を見つめ、自分たちで課題を探し、それを解明する訓練を行います。
授業内容
実習は愛媛大学附属農場で行います。朝からバスで移動し、1日農場で過ごします。午前中は履修生全員一緒に農作業を行い、午後からは、果樹班・蔬菜班・パーマカルチャー班に分かれて分野別に作業します。大学の授業で学んだ内容を実際に体験するのがこの実習であり、学生はさらに2~3人のグループに分かれて、自由なアイデアで研究しています。
取材したのはパーマカルチャー班で、有機栽培により作物を育てており、開講時に更地からスタートし、1グループ1畝程度を管理しています。畑に着いたら、まずはグループ毎に生育調査を行います。メジャーで高さを計測しながら、作物の状態を確認しました。調査の後は、収穫、追肥、水やりと、作業は進みます。畑での実習には、収穫の喜びはもちろん、想像以上に育った雑草に驚いたり、動物被害を目の当たりにしたりと、現場作業ならではの経験と学びがあります。
学生たちは、化学農薬を使わずに、病気や害虫、動物の被害にどう対応するか、対策を考えます。対策の例として、「コンパニオンプランツ」があり、病害抑制のために野菜の近くにマリーゴールドを植えたり、相性の良い大豆とトウモロコシを一緒に育てたりしています。他にも、アブラムシ対策のためにアルミを貼ったりしていました。
また、収穫した作物はできるだけその場で調理して食べます。収穫した作物は形の悪い物もありますが、見た目は関係なく美味しく食べられることを実感するのは、この実習で大切にしていることの一つです。
この授業では、学期末にグループごとに自分たちの研究を発表し、お互いが評価します。あるグループでは、研究発表に向けて大量に収穫した野菜のサイズや重さを一つずつ計測し、データ収集を行っていました。収穫量が多く、作業が間に合わない様子を見ると、他のグループの学生が手助けします。声を掛け合い、協力しながら作業し、研究を進めることは、コミュニケーション能力の向上にもつながります。
農場実習は、農業について学ぶ授業ですが、サークル活動のような楽しさも感じられる授業です。
教員からのコメント
農学は「実学」と言われます。これは学んだことが、そのまま実際の現場で役に立つばかりでなく、研究を進めることで農業現場での問題を解決することができる応用的な学問であることを意味します。この実習では、畑や果樹園、水田という農業生態系の中で、作物生産を安定的に行うための実践的な知識や技術を総合的に習得します。
自然は絶えず変化しています。作物は生長するにしたがい、機能を発達、分化させたり、細胞内の代謝生理を変化させたりします。それにともない、作物周辺に生息する雑草、昆虫、小動物、微生物なども独自の生態系を作り上げ、お互いに複雑な影響を与え合います。作物は生態系の一部であり、「農業」は、人間が作物にとって良い生態系や環境を整える活動と言い換えることができます。このような複雑な事象を教室の授業で学ぶことは難しいです。私たち人間は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を備えており、非常に多くの情報を得ることができます。農場で鳥や虫の声を聞き、作物やその周りの状況を見て、作物や土に触れ、収穫物を食べて味や香りを確かめることにより、授業で学んだ知識を「五感で得られた情報」と統合して、複雑な農業生態系を理解し、農作業として応用することをこの実習で学びます。
ほとんどの学生さんは、農作物を栽培したことがありません。事前に養分や害虫、病害、害獣、雑草、土壌水分、日射などの影響を予測して準備するとともに、問題が起きたら、それを解決するための方策を立てて実行します。それが正しいかどうかの答は、自然が教えてくれます。これにより段取り力と観察力、問題解決能力を高めることができます。また作物栽培実験にも取り組んでおり、学期末に結果発表をすることから、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力も高めることができます。また共同作業をすることにより役割分担や協力、仲間作りも楽しみながら行えます。
受講学生のコメント
農学部食料生産学科3年生 伊藤 佳奏さん
本実習では、実際に現場で行われている農作業の体験ができるとともに学生自らが考えたテーマに沿った研究ができます。
私はコロナ禍での入学だったため、1、2年生の間はほとんどが遠隔授業で、同じ学科・コースであるにもかかわらず、知らない人の方が多かったです。そんな中で、多くの人と関わり、仲を深められたのがこの農場実習でした。午前は全員で農作業を、午後は3つの班に分かれて研究をするため、本当にみんなと仲良くなれます。
私はメロンに関する研究をしましたが、実際に栽培してみると管理が想像以上に大変でした。ただ、収穫することができた時は嬉しかったし、とても美味しく食べることができました。収穫したものはその場で調理して食べたり、持って帰ったりと様々ですが、スーパーで売っているものとは違う新鮮さを感じました。「育てるだけじゃなくて食べることも実習」という先生の言葉が非常に印象に残っています。