この授業は、中学校教諭一種免許状(保健体育)を取得するために必要な科目であり、2年次の「保健体育科教育法1」を基にして、優れた授業実践のVTRや附属中学校での授業観察、模擬授業を通して、体育授業における発展的・応用的な授業づくりや学習指導のあり方を習得します。

授業内容

この日の授業は、学生たちが秋に教育実習を行う愛媛大学教育学部附属中学校(メインキャンパスから自転車で約15分)の体育館で行われました。附属中学校の坪内道広教諭も実地指導講師として授業に参加しました。今回の授業のゴールは、「授業の中でICT機器の使い方がイメージできること」です。学校現場では、令和3年4月から文部科学省の「GIGAスクール構想の実現」により、小中学校において生徒一人一台端末のある環境が整備され、体育の授業でも、動画を視聴したり自分の動きを撮影したりすることが容易にできるようになりました。教員もこの環境を利用し、より効果的な授業を行うことが求められています。

授業ではまず、「一人一台端末の活用」、「授業におけるICT機器の活用例」、そして「ICT機器を活用した教材づくり」について講義がありました。その後、実際にタブレットを活用した教材づくりの実践として、「つまずき動画」の作成に取りかかります。「つまずき動画」とは、失敗を演じた動画を作成し、成功動画と比較することで、学習者を正しい動きに導くというものです。

学生は、グループにわかれて、球技(ゴール型)、武道(柔道)、陸上競技(リレー)、器械運動(マット運動)の4種目について、どのような動画を作成するか検討し、実際に失敗例と成功例の動きを撮影します。意図的に失敗する動作をするのも、想像以上に難しいのか、学生たちは何度も撮影し直し、より分かりやすい動画の作成に励んでいました。日野先生は、「動画には文字で動きのポイントを入れるとわかりやすいよ」など、それぞれのグループに具体的なアドバイスをしていました。

日野先生曰く、「中学校の体育の授業は、スポーツ選手を育てることが目的ではなく、できなかったことができるようになるなど、どの生徒にも運動の楽しさや喜びを味わわせることが目的」だそうです。例えばバスケットボールのドリブルは、ボールを強く叩くのではなく、脱力した状態でボールが吸い付くように柔らかく押し出すと、うまくできるそうです。そのようなコツをどのように学習者に伝えて、理解してもらうかが肝心とのことでした。

動画撮影後は、どんなところを工夫して動画を作成したか、グループ毎に発表を行いました。バレーボールを担当したグループは、特に「かまえ」「手足の動作」「力の入れ具合」「ボールに接するタイミング」について、学習者が陥りやすい動きを分かりやすく再現したとの説明がありました。日野先生からは、「カメラの映像は、遠すぎても近づきすぎても大切なところが伝わらない、伝えたい内容に応じたアングルが大切」、「周り(例えば大型扇風機など)の雑音に注意するなど、撮影環境にも注意が必要」などコメントがあり、学生たちは、身体の動きだけでなく他に撮影の技術的なポイントについても教わりました。授業の最後には、今回の授業のまとめとして、ICTの長所はいつでもどこでも動画の再生が可能で、自分なりに工夫や改善ができることだと説明がありました。

この授業で学んだことをもとに、効果的に端末を活用して、学習者に「このスポーツ面白い!」「もっと上手になりたい!」と思ってもらえるような、わかりやすく楽しい授業のできる先生になれるよう、がんばってください。

教員からのコメント

GIGAスクール構想が急加速で進み、学校現場は子供たち一人一台端末のある環境が全国スタンダードになっています。これから教師を目指すにあたっては、マストアイテムとされるICTを効果的・効率的に活用するためのICT活用指導力を身に付けておくことが求められています。この授業では、教育実習とのつながりも視野に入れ、理論と実践を往還させながら単元を見通した実践的指導力の育成を図っています。今回の授業は、学生自らが附属中学校で実際にタブレットを活用して映像コンテンツを作成することにしました。「つまずき動画」では、学生が上手くできない姿を演じます。動画作成を通じて、運動が苦手な子の特徴やわかりやすい指導の仕方を知ることをねらいにしています。大切なことは、「ICT活用は手段であり、目的でない」ことです。実体験を通しながら、運動が苦手な子どもにも、運動やスポーツの楽しさや喜びを味わわせる教師になってくれることを期待しています。

学生からのコメント

教育学部小学校サブコース 3年生 土居愛美さん

本講義では、体育授業における単元案、指導案を作成し、模擬授業を行います。その後、生徒、教師、第三者からの目線で模擬授業の評価を行い、また、模擬授業全体の協議会を行い、良かった点や改善点について意見交換を行います。こうすることで、様々な考えに出会うことができ、自分にはなかった視点や新しい考えに気付き、自分の考え方の幅を広げることができます。また、自分自身では気付くことのできなかった課題を見つけることができ、それを今後に生かすことでよりよい単元案、指導案作り、授業作りを展開していくことができます。さらに、実際に学校現場でご活躍している先生の講義があり、学校現場の生の声を聞くことができると同時に、生徒の実態を踏まえた授業の進め方、近年話題となっているICTの活用の仕方などを学ぶことができます。
将来、保健体育の教員を志す上で、より現場で生かすことのできる知識や技能、考え方を身に付けることのできる実践的、体験的な講義だと思います。