伝えたい事柄の伝達に関して、表現(見せ方)により受け手が理解する伝達内容がどのように変化してしまうのか、また、伝えたい情報を伝わる情報にするには、何が必要かを芸術的な表現とデザインの機能を通じて学ぶ授業です。

授業内容

 この授業は、共通教育科目の授業で、法文学部、工学部、スーパーサイエンス特別コースの学生を対象に、前学期の(※)第1、第2クォーターにそれぞれ全8回開講しています。
 この日は、情報を伝達する行為としての展示デザインについて「物的世界を情報的な意味世界として見直すこと」、「情報(メッセージ)を正確にわかりやすく視覚化すること」、「展示デザインをつくりあげる上で、何が伝わるのかを相手の立場になって考えること」といった情報伝達としての展示デザインの基本についての話がありました。さらに情報伝達は「企てる(=情報の収集、分析等を行う)」ことと「組み立てる(=技術を用いて、心理と感覚器にアプローチする)」ことの2つの機能で構成されるといった講義が成され、その内容が後の実習に結びつくものでした。
 情報伝達としての展示デザインの話の後、講義全体の最後に完成させる課題[自分自身を展示の題材に見立て、自身の展覧会(ポスターや3次元で表現)を企画する]を行うにあたって、自己分析の方法「情報の収集と整理」について説明がありました。この日の授業で取り掛かったのは、先に説明のあった「企てる」作業で、自己を見直すために、自分についての情報の書き出しを行う作業に取り掛かりました。書き出した情報は、その後、情報のグルーピング(整理)をおこない、分析するのですが、紹介された過去の事例を見ていると、このグルーピングでかなり、自分が見えてくることが分かりました。
 この講義を受講するまで「芸術」や「デザイン」とは、感覚的に絵を描いたり、物を作ったりすることで特別なセンスが無ければならないと考えていましたが、講義を通じて「デザインとは情報の伝達でもあり、デザインするためには、言葉や文字を使って情報収集や分析することも重要であること」を知りました。また、芸術もデザインも相手に何かを伝えるツールと捉えるなら、これらを学ぶことで日々の生活や仕事でのコミュニケーション力の向上にもつながっていくのではないかと思いました。
 創作的なことに興味がある方はもちろんですが、理論的に芸術を学びたい方にもぜひ受講していただきたい授業です。

※クォーター制とは
本字におけるクォ一ター制は、1年を前学期・後学期の2学期に分け、原則として学期ごとに単位を付与するセメスター(学期)制の変形的運用として、各セメスター(学期)を2分割して4つのクォ一タ一を設定しているため、単位認定のまとまりはセメスター(学期)制と同じ前学期・後学期となり、卒業は前学期の終わりの9月と後学期の終わりの3月となります。

教師からのコメント

 芸術の世界「伝達表現を考える」の授業では、コミュニケーションとして言葉で伝えることとは別に、伝えたい情報(事柄)について平面や立体、空間や時間といった芸術的・デザイン的表現をつかった伝達の違いによって、受信者側の心象的認識に変化が起こることについて学びます。そして、展示デザインにおける伝達法を使って、「送り手の伝えたい情報」を「受け手に伝わる情報」にするための理論や特性、伝わる情報をつくるために必要な情報収集や分析・整理術などについて具体的な課題を通して学びます。
 現代人は、電話やメールなど情報が媒体に合わせて物理的に変換されつつも受信者にそのまま正確に伝わるという仕組みに慣れてしまったせいか、人間どうしのコミュニケーション、つまりアタマからアタマへの情報伝達においても、伝達内容はすべて相手に伝わるのが当然、或いは、伝われば相手がそれを十分に理解するのが普通だ、というふうに思い込んでしまいがちではないでしょうか。この授業では、「人間のコミュニケーションにおいて伝わらない部分があることも当たり前である」ことを前提とした上で、言葉・絵や図・パフォーマンスなど様々な情報伝達を学習しながら、受け手に伝わる情報に対するひとつの解を「受信者が欲しがる状況をつくり出す見せ方」として考えていきます。

学生からのコメント

 「この絵文字ならうれしい気持ちが伝わるかな…」SNSを使う際、このように悩んだ経験はありませんか?情報伝達の方法は文字だけではありません。色、音、手触り…、私達は体のあらゆる部分を使って、情報の送り手が伝えようとした情報を受け取っています。本講義では展示空間をデザインするという課題を通して、授業で学んだ情報伝達に関する知識を使い、自分なりの表現を行うことで「伝える」ことについて学びます。
課題で行う展示空間のデザインのテーマは「自分」です。課題では具体的なデザインをする前に、自分について思うところを文字にします。私が最も難しいと感じたのは、文字にした伝達内容を、「伝わる」表現に変えることでした。展示は鑑賞者の興味を引くと同時に「伝わる」ものでなければなりません。そのために、鑑賞者の情報の受け取り方を想像しました。情報の受け取り手のことを考えるということは、デザインの分野だけでなく、普段のコミュニケーションにおいても大切です。SNSのメッセージで絵文字を使う場面と同じですね。このように、大学の講義内容には日常に役立つ知識が散りばめられています。
 高校生の皆さん、しんどいことの次にはいいことがあると信じて、受験頑張って下さい。私達と一緒に愛媛大学で学びましょう!