観光と地域文化の関わりについて考え、観光が地域社会に果たす役割や影響について研究するゼミの演習授業です。
授業内容
社会共創学部地域資源マネジメント学科文化資源マネジメントコースでは、2年生後期から、より専門的な知識を習得するために、学生が希望する専門分野の研究を行うゼミに所属します。この授業は、井口梓研究室(観光文化論研究室)のゼミの演習授業で、観光地でのフィールドワークや産官学連携プロジェクトを通じて、文化を活かした観光とまちづくりの関係性について学んでいます。この演習は法文学部人文学科観光まちづくりコースとの合同授業で、社会共創学部地域資源マネジメント学科から学生6名が受講しています。
この日の授業では、それぞれのチームが1年間取り組んだ研究成果について発表会を行いました。ゲストに株式会社フジトラベルサービス様をお迎えし、専門家のご意見とアドバイスをいただきながら、学生が取り組んでいる観光系産官学活動の研究発表を行いました。
研究発表は、次の5テーマで行いまいした。
(1)「わたしの山旅」プロジェクト研究(PowerPointによる発表)
このチームは、法皇山脈をPRするための旅行商品造成について取り組んだ成果を発表しました。2018年12月8日、9日に滋賀県で開催された第10回全国エコツーリズム学生シンポジウムでの招待発表の内容です。このプロジェクト成果をもとに愛媛県東予地方局と連携し「法皇山脈魅力発信プロジェクトここからはじめるわたしの山旅HP」を制作しました。
法皇山脈魅力発信プロジェクトここからはじめるわたしの山旅HP
(2)法皇山脈の観光行動の特性(ポスターセッション)
このチームは、法皇山脈を訪れる登山客の行動と、新居浜市や四国中央市の地域関係者による登山道整備等の動向について発表しました。2018年7月7日に東京都で開催された観光学術学会ポスターセッションでの発表内容を踏まえたものです。
(3)内子町小田巨樹巨木プロジェクト研究(ポスターセッション)
このチームは、内子町小田地区の巨樹巨木の聞き書き記録を収集し、その成果を活かしたエコツーリズムのマップ制作について発表しました。第10回全国エコツーリズム学生シンポジウムでの発表内容です。
(2)(3)の2つのポスターセッションは同時進行で行い、聞き手である受講生が興味のある発表を選択するスタイルで行いました。
(4)今治桜井地域資源調査(PowerPointによる発表)
このチームは、平成29~30年度に桜井地区地域水産業再生委員会と連携して行った地域資源調査の結果と観光の企画提案について、「桜井地区の文化資源と観光まちづくりの可能性」と題し、「港町」「桜井漆器」「信仰」「町並み」の4つのテーマから発表しました。2019年2月2日に開催された平成30年度「愛媛大学公開講座in今治市」においても発表しました。
[トピックス]平成30年度「愛媛大学公開講座in今治市」を開催しました【2月2日(土)】
(5)三津浜検定を通した文化資源マネジメント(PowerPointによる発表)
このチームは、三津浜地区の地元団体と協力して、地域の歴史や文化について調査を実施し、「三津浜検定」や『三津浜まちづくりガイドブック』の制作、三津浜小学校と連携した「三津浜ものしり博士検定」の実施、一般の方を対象とした「三津浜マイスター講座」(まち歩き・検定講座)の実施などを通して、三津浜地区の魅力の発信に取り組んだ成果を発表しました。
2018年3月には、その活動に対し、松山市長から感謝状を贈呈されています。
[トピックス]松山市長から社会共創学部井口梓研究室に感謝状が贈呈されました【3月5日(金)】
全体を通して、発表では、学生が現地の様子を時間をかけて取材・分析し、PowerPointやポスターにわかりやすくまとめていました。ポスターセッションや発表後の質疑応答では、積極的な質問や提案があり、終始活気ある授業でした。また、ゲストの株式会社フジトラベルサービス様からは観光のプロの目線から「無形なものをいかに観光資源に変え、いかに伝えるかが重要」とした上で、その伝え方として「Webだけでなく対面による情報発信も重要」とのお話をいただきました。
このゼミでの学びは、①取材・分析をする能力②その成果をスライドやポスターまとめる表現力③研究成果のプレゼン能力の向上につながるもので、これらは、就職後も必要とされ、すぐ役立つものばかりです。学生は学びとともに、愛媛の目立たない地域に足を運び、現地で文化を探り、地元の方々の思いを反映した提案に行うことで、地方活性のお手伝いをしており、すべての研究が「地域をもっと元気にしたい、地域の魅力を多くの人に知ってもらいたい」という想いに溢れていました。
内子町と連携した内子の巨樹巨木のHP★小田巨木マップのダウンロードはこちらから★
桜井再生委員会と連携したHP★文化発信ポスターのタウンロードはこちらから★
教員からのコメント
この授業は、観光と文化の在り方、観光と地域社会の関係性、持続的な観光等について学ぶ演習式の授業です。授業では、受講する学生がそれぞれの研究の関心に合わせて、学術論文や専門書を読みつつ、「実践プロジェクト」と「研究プロジェクト」の両方に取り組みます。「実践プロジェクト」とは、自治体や企業、NPO、住民団体等、地域の関係者と連携し、フィールドワークやワークショップなどを通して企画立案した活動に1年間かけて取り組むもので、「研究プロジェクト」とは、取り組んだプロジェクトについて、観光研究の方法や視点からその成果を客観視しつつ学術研究としてまとめるものです。学術研究の成果は、学外での学会やシンポジウムでの発表を目標にしています。
受講生のテーマも多岐にわたっており、自然資源を活かしたエコツーリズムや産業観光、コンテンツ観光(小説や映画を活かした観光)、国際観光(インバウンド観光)、観光におけるSNS等のバーチャル体験、伝統行事と観光、伝統食を活かしたまちづくりなど、様々です。北は知床、南は石垣島まで日本各地、時にはヨーロッパやインドネシアなど、テーマに合わせて様々な研究事例が挙げられ、研究あるいはプロジェクトの問題点や可能性について、受講生同士でディスカッションします。互いの研究についてプレゼンテーションする時間は学生にとっても充実しているようで、教員にとっても毎回異なる研究事例を聞くことができ、とても楽しい時間です。時にはみんなで旅行計画をたてて、テーマに合わせた先進地を視察に行くこともあります。
観光の諸現象に対して、「理論」と「実践」を両立しつつ、様々なアプローチを考えていくことはとても重要なことです。皆さんも、一緒に観光学を学んでみませんか。
学生からのコメント
この講義では、地域の多様なステークホルダーと協働しながら取り組んでいる観光振興やまちづくりのプロジェクトについて発表したり、受講生それぞれの興味関心に合わせた観光文化研究について議論しています。毎回、2名程度の学生が発表し、参加者は自由に意見を出し合います。愛媛県内の様々な地域で、生活・文化を資源として収集し、ガイドブックやマップ等の観光コンテンツ制作に取り組んできたことを、講義で発表することで、自らが行っている活動が地域にとってどのような意味合いを持つのかを振り返ったり、課題点を見つけたりするきっかけとなります。
私は、文化の維持・継承に対する地域住民の考えに関心を持ち、論文を紹介しました。そこで、地域住民の考える文化の「本来あるべき姿」についての議論があり、地域内の社会秩序や外部からの影響により、その捉え方が異なることを学びました。ゼミ生全員で一つの論文について議論し、様々な視点から深く読み解くことができるのがこの講義の魅力だと思います。