この授業は、トランスディシプリナリー研究の学問体系を踏まえて、多面的な視点からの地域社会の現状把握、地域に内在する課題の設定方法、社会のあるべき姿の究明及びステークホルダーとの協働の在り方に関する基礎知識を習得し、地域社会の持続可能な発展に貢献するための科学と社会の連携による「知の統合」を構築する視点を養うことを目的としています。
授業内容
今回の授業では、社会共創学概論の第13章「グローバル社会の進展に伴って深刻化する環境問題ーインドネシアにおける貧困問題を背景とする水銀汚染ー」について学習しました。始めに、教員から、日本で起きた水俣病を例に、水銀は非常に毒性が高く、人間や動物の脳、神経系にダメージを与えることが示されました。
そして、インドネシアからの留学生が、インドネシアの現状を報告しました。インドネシアでは、小規模人力金採掘(ASGM)が行われています。ASGMは、簡単な装置で金を採掘することができ、農業に比べて高収入を得ることができるため、女性や学校に通えない子どもたちを含む多くの人たちが働いています。しかし、金精錬のために使用される水銀の影響で、周辺環境が汚染され、障害をもった子どもが産まれたり、体の一部に腫瘍が発生するといった健康被害が出ています。さらに、教員から、ASGMについては規制はあるが実効性が低いため、水銀汚染は拡大しつつあるという問題点が挙げられました。
これらの問題に取り組むためには、トランスディシプリナリー・アプローチ(TDA)がキーワードとなります。TDAとは、科学と現実社会が交わる問題領域で、ステークホルダーと科学者の双方が企画段階から学び合うことによって問題を特定し、適確な研究課題を設定して、問題解決に向けて継続的に協働していくという手法です。その際に、前者の有する在来知(生活知)と後者の科学知から知の統合を目指し、それによって課題解決を実現します。
その一例として、枕や寝具の素材として使用されているカポック繊維を活用し、水銀汚染された水の水質改善・新素材の開発が紹介されました。これまでに、汚染された河川水を加工したカポック繊維にろ過することで、水質が改善されることが研究されています。カポック繊維「在来知」と、それを加工する新素材の開発「科学知」との「知の統合」によって、ASGMで水銀汚染された廃水を、持続可能的に浄化するシステムの構築が期待されます。
この授業を通して、学生たちは、地域社会が抱える問題の本質を理解し、TDAの手法やステークホルダーと協働する指針を学びながら、課題解決思考力を身につけていきます。
教員からのコメント
「地域社会が抱える問題を解決する」、そう宣伝する大学・学部は、全国で年々増えています。それは、現代社会の大学に対する期待であると同時に、現在の大学が足りない部分でもあります。では、「どのように問題を解決するのでしょう?」。もっと、鋭く問えば、「大学は本当に地域社会の抱える課題を解決できるのでしょうか?」と聞きたくなるでしょう。
愛媛大学は平成28年度から新たに社会共創学部を新設しました。この学部は、既存の理学部、工学部、農学部、法文学部、教育学部、医学部から「異能な教員」が集められた文理融合の学部です。この学部では、専門分野に関わる内容のみを学ぶのではなく、問題を解決するために必要な学問を学びます。そのスタートとして、この「社会共創学概論」が新入生に用意されています。「論理的思考力」、「サーバントリーダーシップ」、「トランスディシプリナリー・アプローチ」、「知の統合」など、今年、刊行されたこの授業の教科書からは、今まであまり聞き慣れない言葉が飛び出てきます。でも、心配は入りません。何故なら、日頃から地域社会の問題に関心を持っている皆さんにとって、これらは「目からウロコ」の内容なのです。皆さんと「社会共創学概論」の講義で議論できる日を楽しみにしています。
学生からのコメント
社会共創学概論では、まず社会共創学とは何かを学びます。そして、社会共創学部の一員として地域のステークホルダーと協働していく力を身につけます。
授業では、社会共創学部の先生方のお話を聞き、その地域が抱える問題とは何か考えます。そして、その問題を解決していくための具体的な解決策について、学生同士で意見を交換し合います。最近の授業では、町内会や自治会の問題について考えたり、過疎地域の活性化について学んだりしています。社会共創学部ならではの授業スタイルで、4つの学科の学生がグループワークをしながら授業を受けることができます。