この授業では、社会と医療というテーマで、医療機関内の診療の枠を超えて、研究倫理、刑務所における医療、男女共同参画などのテーマで、幅広く医療関連のトピックや社会的トピックを講義します。特に、愛媛県における地域医療の現状を理解し、愛媛県の医療の中でさまざまな診療科におけるキャリアの伸ばし方を多角的に学ぶ機会としています。
授業内容
この授業は、オムニバス形式で構成されており、今回は、愛媛大学卒業生で松山赤十字病院精神科・心療内科の永井美緒臨床教授が講師として、「急性期総合病院における精神科医療」と題して講義を行いました。まず、「精神科医のイメージとは?」と学生に質問を投げました。「女性が働きやすく、子育て経験も活かせる職業」という自身の見解を踏まえ、精神科医は高齢者医療・認知症、児童・思春期、緩和ケア、総合病院精神科…等の幅広い領域で活躍が可能で、自らの人生経験は全て臨床に活かせると強調しました。
そして、実際に精神科医がどのようなことを行っているかについて、話が進みました。精神科医は、思考、感情、意欲、知覚、意識、記憶、知能といった視点で診察しており、精神療法、薬物療法等を行っています。
次に、総合病院精神科のメイン業務として、身体疾患治療中に生じている精神症状を治療する「コンサルテーション・リエゾン精神医学」の説明がありました。身体的な病気で入院していた患者の多くに何らかの精神医学的問題があったという調査結果から、総合病院での精神医学の必要性が喚起され、日本では1980年代から開始されました。
続いて、総合病院ならではの多職種チーム活動(多職種のスタッフが協力して治療を多角的にサポート)について、説明がありました。認知症ケアサポートチームの一員として、認知症高齢者の適切なケアや治療の支援を行っていること、また、緩和ケアチームの一員として、がん患者の治療支援や精神的苦痛の緩和を行っていることが紹介されました。このように、総合病院の精神科医は、様々な治療の精神的サポートを行っています。
この講義を通して、学生たちは、総合病院精神科に対する多様なニーズを理解し、身体疾患の治療が滞らないような精神科治療や多職種と協働した支援の重要性を学びました。
最後に、永井医師から、「何科の医師になっても全人的な視点での医療が提供できるように、また精神医学的な初期対応もできるように臨床研修を頑張ってください」と学生たちにメッセージが送られました。
講師からのコメント
「精神科医」というと敷居が高い職業のように感じられるかもしれません。私たちは、周産期医療から終末期医療まで、小児から高齢者まで、幅広い方々の精神的問題に対して、診断・治療を行っています。また、医療機関での診療だけでなく、精神鑑定や産業医としての活動等々、精神科医の活躍が期待される場は多くあります。
今回は、急性期総合病院での精神科医の役割についてお話ししました。体の病気になった患者さんの中には、病気にかかったことで不安になったり落ち込んだりする方、認知症のために混乱して治療を嫌がってしまう方、精神疾患治療中の方などもおられます。そのような方々にも安心して検査や治療を受けていただけるように、総合病院の精神科医は精神療法や薬物療法を行ったり、多職種と協働した支援を行っています。体の病気だけではなく、その人の精神状態や今まで生きてきた背景などの全人的な視点を持った関わりが、生活の質(Quality of Life)の改善には必要だと考えます。
学生からのコメント
「社会と医療」では、大学の先生だけでなく、他の病院の先生もオムニバスで講義に来てくださいます。今回は松山赤十字病院精神科・心療内科の永井先生が来てくださいました。精神科領域のお話はもちろん、多職種チーム活動といった医療全体につながるお話がありました。普段の大学の講義では医学の知識を学ぶことが主体となりますが、この「社会と医療」では知識だけでなく医療従事者に求められる人間性・社会性を、最前線で働いていらっしゃる方々から教えていただくことができます。また、机上の勉強だけでは学べない大切なことを教わることで、自分が医療従事者になる上で今後どのように医学生としての生活を過ごしていけば良いか考え、実践するきっかけをつくることもできます。学生時代から医療従事者に求められる様々なことについて考える機会を設けることはとても大切だと思います。