この授業の目的は、健康と暮らしを継続的にとらえて健康課題に対応した看護を実践するために、健康課題とその人の暮らし方、生活環境や地域の特性・社会資源を関連付ける思考過程を身につけることにあります。全15回の授業を通して、81歳の女性がモデルとして設定されていて、

1)その人が膝の痛みを持ちながらも自宅で生活している健康の維持・増進の段階
2)膝の状態が悪化し手術を受ける急激な健康破綻の段階
3)リハビリテーションを必要とする健康への回復の段階
4)再び自宅に戻り自宅での生活を獲得していく段階

と進んでいきます。それぞれの健康段階で看護過程を展開するという授業ですが、健康段階に応じて特徴的な思考の方法があります。上記3)の健康の回復の段階では、「目標志向型思考」という考え方を用いて看護計画を立案しました。
取材を行った授業は、その看護計画の実践の場面でした。

授業内容

授業では、「健康への回復段階にある人の看護(立位機能・歩行機能の向上)」について、各グループで検討した看護計画の内容のシミュレーションが行われました。学修の目標として、

①患者さんから車椅子へ移乗する同意を得ることができる
②正しい移乗方法の手順を説明できる
③移乗動作の自立に向けた支援ができる

が掲げられていました。
シミュレーションでは、左人工膝関節置換術を受け、急性期治療を終えて回復期リハビリテーション病院に入院中の81歳の女性がモデルになっており、学生は、臥床傾向にある患者さんに対して、車椅子への移乗動作の機会を増やし、安全に移乗動作が行えるようどのような声かけをし、移乗してもらうための支援をどのように行うか等、それぞれが考える看護を実践していました。ひとつは、食事のため、車椅子に移乗して食堂に移動してもらうのですが、いつもより30分早めに移動することを提案したところ、なかなか起床を受け入れてくれない患者さんにどのように対応するか、また、車椅子への正しい移乗方法の手順を説明しつつ、できていることを賞賛することで、患者さんをやる気にさせる配慮など、様々な工夫を織り交ぜながらシミュレーションが行われました。

シミュレーションの後には、ファシリテーター役の教員から実践した学生に対して、「何を意識して車椅子への移乗を促したのか」「車椅子移乗の際、どこを注意して見ていたのか」「実践しての感想」などの質問があり、実践した学生とそれを観察していた全学生とで振り返りが行われました。学生からは、「実際に人を相手にすると、看護計画のとおりに声かけや支援ができなかった」などといった声が聞かれました。また、患者役の教員からは、「移乗動作の際に、出来ていることを褒められて嬉しかった」「自分の痛みについて、もっと理解してもらえると嬉しい」といったコメントがありました。最後に、ファシリテーターから、実際にやってみた声かけや看護・支援の経験を踏まえて、更に看護計画をブラッシュアップして、柔軟に対応できるようになってほしとのコメントがありました。

この授業では、各グループで検討・作成した看護計画のシミュレーションと振り返りを通して、そこでの気づきや反省を踏まえた看護計画の見直しに繋げ、それぞれの患者さんに応じた看護・支援の実践に繋げていく過程を学ぶことができます。取材を行った担当者の感想になりますが、画一的な看護計画ではなく、自分にあった看護計画に基づき支援してもらえたら、安心して治療やリハビリに臨むことができるのではないかと感じ、そのプロセスを学ぶことが出来る授業だと思いました。

教員からのコメント

授業の様子

この授業は、健康課題別の暮らしの支援科目群に属しています。看護の対象は病気を持つ人だけではありません。生存し、活動することに加えて、社会での暮らすということに重視して、人を生活者として捉え、その生活者である人を看護の対象としています。そのことを踏まえて、この科目では、中山間地域で暮らすある女性が、健康のステージが変わっていく中で、それぞれの段階で特徴的な看護の思考過程を学べるように、展開されています。

これまでの看護過程演習では、看護計画を立案するところまでというのが主でしたが、今年度から実施・評価するということを加えました。自分たちがグループで考えた看護計画を実践してみることで、対象への説明の方法、言葉の選び方、想像していた返答では無かった場合の対応など、やってみることでわかること、もっと考える必要があることが見えてきます。また、看護過程は実施だけで無く、評価が重要になります。自分が実施した内容や、それによる対象の反応を評価し、計画の修正の必要性があるかどうかを検討していきます。この授業で、アセスメント、看護診断、看護計画、看護の実施、評価という一連の看護過程の展開をおこなうことになり、3年生前学期から始まる健康課題別看護実習に繋がっていきます。

学生からのコメント

医学部看護学科 2年生 池田 未来 さん

この授業を通じて、対象者についてアセスメントし、計画を立てて終わりではなく、実際にシュミレーションすることで、計画を立てる段階では気づくことのできなかった、実施中に注意することや計画上の課題点に気づくことができます。また、実際の患者さんと接する時は事前に立てた計画通りに進むとは限らないことにも気づくことができます。このような気づきを得ることで、対象者の機能回復について次の目標や課題点を見つけ、対象者に合わせた個別的でより良い計画立案へとつなげることができると思います。

医学部看護学科 2年生 林越 真央 さん

この授業では、ひとりの患者さんの事例を使って、あらゆるステージにおける必要な支援を考えてきました。ひとりの患者さんで、状態が悪くなって、手術して、回復するといった看護過程を展開することで、その流れを掴めたとともに、本当に必要な情報が揃っているか、無駄はないか、妥当性があるかを確認していくことが適切なアセスメントへとつながることが理解出来ました。また、自己学習で考えてきたものを元に、グループで意見交換を行うことで、自分ができていない点・強化すべき点に気づき、さらなる学習の動機付けとなりました。先生方においても、何を目的とする事例演習かを明確に示してくださったので、自ら学び、考えようとするモチベーションを高めることが出来ました。この授業を通して、看護過程をなぜ学ばなければならないのか、学ぶことでどのような良いことがあるのか、看護過程の意味と利点に関して理解でき、それぞれにおけるポイントを掴めました。今後、実習での展開では状態が一定ではない患者さんを対象としますが、一喜一憂し困惑せず、この授業で学んだことを最大限利用して取り組みたいと思います。

写真左:池田さん 写真右:林越さん